よーく目元に馴染ませていると、コツ、コツ、コツ……とこちらに向かってくるハイヒールの音が聞こえてきた。

最後にすっかり隈が隠れたことを確認して化粧室を出ようとした時、入ってきた人物に足が止まる。

私と同じように磯部さんも足を止め、私を見るなり目を見開いた。

うっ……! どうしてこのタイミングで磯部さんと会っちゃうかな。今、一番会いたくない人だったのに……。

磯部さん、知っているんだよね? 私と上杉さんの関係を。……好きな人からお見合いをしたと聞いた時、磯部さんはどんな気持ちだったんだろう。

誰かを好きになったことはないけど……私が磯部さんの立場だったら辛いと思う。

自分の気持ちもわからず、上杉さんとの関係を曖昧にしたままのくせに、昨夜のような感情を抱くなんておかしいよね。

本当、どうして私……ムカムカしちゃったんだろう。

磯部さんの顔をまともに見られなくなり、視線は下がっていく。早くこの場を立ち去りたい。

「お疲れ様です」

「待って」