大学一年生の冬、初夏が死んだ。
呆気ない死だったという。葬式に参列して、初夏の両親から話を聞いた。
淡谷、というのが彼女の名字で、僕こと綾瀬 夏貴は高校で出席番号が前後だった。

 初夏は不思議な女の子だった。
ケラケラとうるさいくらいによく笑い、冗談も言うし人当たりも良い。

クラスの人気者とか、一軍とかそういった言葉で表せるような人間ではなかったけれど、彼女の周りにいる女の子達はいつも居心地が良さそうに柔らかい雰囲気を纏っていた。

目立つような子でないし、絶世の美女というわけでもない。
ただどこか惹きつけられるものがあったのだろう、彼女はモテた。
しかし優秀な彼女であっても大学入試はインフルエンザて不合格。
肩書は浪人生または予備校生で、アルバイトをしながら勉強中。
そんな散々とも言える一年でも、いつも初夏は明るく時には電話なんてかけてきた。

それが僕が覚えている限りの、表面的な初夏の特徴だ。
全く――どうして彼女が死んだのか、分からない。

調べたところ死因は崖から転落して全身を強く打ったことだそうだ。
しかし僕が言いたいのは、死因ではない。
何か彼女らしくないのだ。

初夏が落ちたという山は淡谷家から離れているし、彼女は一人だったという。

そんなことがあるだろうか、あるのかもしれないけれど、明るい優しい初夏にはあまりにも似合わなかった。

――僕は今、淡谷家の一部屋にいる。
仏教徒でない淡谷家には、遺影はあれど仏壇はない。
いつ頃撮ったものだろうか、いい笑顔の初夏がそこにいた。

寿命以外で死ぬだなんて、せめて成人する前に死ぬだなんてことの考えられない笑顔だ。

横で初夏の母親の泣く声が聞こえた。
ちらりとそちらに目をやると、彼女は無理に笑ってみせた。

初夏とよく似た笑顔だが、今はひどく胸が痛くなる。

「あの子、すごく好きだったのよ。夏貴くんのこと」
「…そうだと、嬉しいんですけど」

初夏は僕のことが好きだったかもしれない。

けれど、初夏の母親が言うそれとは全く違う意味で。

「いつも話をしてた。だから…恨まないであげてね」
「恨むなんて、そんな」

だって僕たちは付き合っていたのだから。