それから、兼六園の坂を上って園内に入る。連休中とあって観光客が多い。5月の今は、すっかり葉桜になっていたけど、ツツジやアヤメが満開だった。

園内をひととおり見てから金沢城へ。石川門を入って中の新しく建てられたという建物を見学して一休み。コンビニで買ってきたおにぎりを二人で食べる。

午後は近代美術館へ。見学者が意外と多いのに驚いた。入場するのに随分時間がかかってしまった。圭さんは美術への関心はそれほどではないみたい。私は、変わった絵や彫刻が展示されているので面白かった。

それから香林坊へ、金沢一番の繁華街で、デパートもあるし、Tokyu109もある。地方の県庁所在地は都会にあるものはほとんどあると圭さんは得意そうに話していた。

少し歩くと武家屋敷跡なので、そこも散策した。近代美術館に時間がかかったので、散策が終わると、もう3時を過ぎていた。歩き疲れたので帰ることに。

片町を通って犀川大橋へ、途中の交差点はスクランブル交差点となっている。渋谷のスクランブルとは違って人どおりはまばら。圭さんが、金沢にもスクランブル交差点はあるといったので、大笑いしてしまった。郷土愛の強い人だ。

この交差点はコンビニ激戦区で有名コンビニがすべてそろっていた。家の近くにはスーパーがないので、コンビニで夕食の弁当や朝食を買って帰ることになった。

最寄りのスーパーは家から歩いて12~3分、総合スーパーは車で5~6分位のところにあるという。金沢は旧市街でも車が生活の必需品だそうだ。

圭さんは時間が無くなって人気の東の茶屋街を散策できなかったとすまなそうに言う。東の茶屋街は、ここからかなり離れた浅野川を渡った山のふもと辺りにあるという。

金沢には東と西に茶屋街があり、昔の風情が残っているとか。茶屋街というが、昔の遊郭があったところで、今は料亭が軒を連ねて芸妓さんもいるとのこと。

東は無理でも西は帰りに立ち寄ることができるといって案内してくれた。2人ゆっくり見物してからそのまま帰宅した。

「いろいろなところを見物させてもらってありがとう。修学旅行みたいで楽しかった」

「高校の修学旅行はどこへ行ったの」

「行っていないです」

「それじゃ修学旅行の代わりになってよかったね」

「金沢は歩いて見て回れるので、修学旅行には最適だし、住むのにも良い所だと思います」

「でも、冬は寒いよ。11月下旬から雲や雨の日が多くなり、12月には雨があられやみぞれになり、1月、2月は雪が降る。3月中もかなり寒くて時々雪が降る。5月の連休まではほとんどの家でこたつをしている。冬が晴れている東京に10年も住んでいると、ここの長い冬がうっとうしくなる。お正月に来るとそれが分かると思う」

「お正月も連れてきてください」

「良いけど。よく東京の人が冬の北海道へ流氷を見に行ったり、雪の日本海を見に行ったりするのを聞くけど、わざわざよく行くなあと思う。1、2日なら雪見もいいけど、4~5か月も生活するとなると耐えられない。東京から転勤してきた人の奥さんがノイローゼになったという話もある」

「でも夏は涼しいのではないですか」

「天気予報を見ていると、大体2℃位低いみたいだけど、夏も最近は結構暑いみたい」

「物価も東京より安いみたいで、住みやすそうです」

「交通費が安いかもしれない。バスは200円、旧市街はコンパクトでお城の回りにあるから、タクシーでは1000円で大体どこでも行ける」

「そういえば、駅からここまでタクシーで15分くらいだった」

「ここから駅まで歩いても45分ぐらい。コンパクトな町だから歩いて観光するのに向いている。最近は観光ルートにバスが走っているから、それに乗るともっと早く回れる」

「私は今日みたいに気ままに歩きまわるのが好きです」

「市が町中の整備を積極的に行っているから、10年前と比べても随分綺麗になった。観光都市になってきた感じ。でも金沢の一番気に入っているのは、空気と水が良いことかな。東京と比べてずっとおいしい」

「気が付かなかったけど、そう言われれば、空気がきれいで水道の水もおいしいです」

「明日の午前中は、庭の手入れを手伝ってほしい。草取りや落ち葉を集めるだけ。帰りの新幹線は13時56分の「はくたか」、「かがやき」より30分余計にかかるけど、5時ごろに東京駅について、6時には帰宅できる」

「よろこんで」

それから買ってきたお弁当を食べて、お菓子を食べて、お風呂に入って、2人とも疲れていたのか、朝まで熟睡。

【5月5日(木)こどもの日】
朝食後に2人で庭の掃除を始める。庭と言っても、駐車場が大部分なので、奥の方と狭い裏庭だけ。5月なのでもう雑草が随分伸びている。

圭さんはボタンとツツジを剪定した。あと、キクなどの多年生の草花を残して雑草を取り除く。これだけしておいても夏に来ると雑草が伸び放題になっているとか。ご近所の手前、手入れをしていることが分かる位にはいつも刈っておくとのこと。

ゴミ袋が3つになった。圭さんは、前の家へ、今日帰るから明日の金曜のゴミの日に集積場に出してもらえるようにお願いに行った。これも掃除・手入れをしていることのアピールの一環とか。

庭掃除を早めに終えて、今度は窓などの戸締りの確認。ガス、水道を確認、最後に電気のブレーカーを落として鍵をかける。タクシーを呼んで駅まで。駅近くのビルでゆっくり2人で昼食にご当地の金沢カレーを食べた。おいしい。

「美香ちゃんに手伝ってもらって助かった。ありがとう。いままで一人でやっていたけど昔のことばかり思い出して味気なかった。2人話しながらで楽しかった」

「圭さんの実家が見られて良かった。観光案内までしてもらって、こちらこそ楽しかったです。また、連れて来てください」

「良いよ。こちらも助かる」

「良いおうち、どうするんですか?」

「今は処分する気にならないので、当分の間は機会をつくってメンテしてゆくつもり。東京で住まいを買うことになれば、売っても良いけどそう高くは売れない。そうでなければ、定年後に金沢に帰って住んでも良いとも考えているけど。あと30年建物がもてばの話だけどね」
「万が一の時に住むところがあるのは安心ですね」

それから、駅ビルで夕食用のお弁当とお茶を買って、圭さんが大好きだという「圓八のあんころ」を2つ買って、新幹線に乗りこんだ。圭さんは金沢のお弁当は結構いけるから夕食が楽しみだと言っていた。圭さんはお弁当が大好き。3時ごろに買ってきた「あんころ」を2人で食べた。

「おいしい。いままで食べたあんこのお菓子でいちばんおいしいと思う」

「気に入ってくれてうれしい。僕も昔から大好きだから」

「もっと買ってくればよかったのに」

「日持ちがしないので、当日に食べないといけないから、たくさん買えないんだよ」

今年の連休は2日(月)と6日(金)の2日休暇をとれば10連休となるところだけど、圭さんは2日は出勤したし、6日も出勤する。

長く休んでもすることがないからが理由。また、連休の合間は休暇の人が多いことから会議もないので、落ち着いて仕事ができるそうだ。私も授業がある。

6時に帰宅。家に帰ると2人ともほっとして、お風呂に入るとすぐに就寝した。旅行は疲れるけど、2人の初めての旅行はとても楽しかった。圭さんは私が喜んでいたのでうれしかったみたい。恋人つなぎもできたし、2人の距離がまた縮まった。