「驚いた?」
数分の沈黙を破ったのは専務の方だった。
「そりゃ、もう本当に信じられないくらい...あの、数々の無礼申し訳ありません。」
「本当だよな〜。いきなり話し掛けて来たと思ったらタメ口だし」
いやいやいや、いきなり私に関わって来たのは貴方の方でしょうが!...と言いたい気持ちをグッと堪える。それに...
「専務とは知らず、年下だと、思ってまして...。」
「...俺は今年32だけど。」
「え゛!?私より5つ上なんですか!?」
驚きすぎてコーヒーが喉につっかえて変な声が出てしまった。この専務が私より年上?しかも5つも??
この人が専務だったという事実より驚いたかもしれない。いや、だってこの顔立ち!ぱっちりした目!笑った顔なんて少年のあどけなさそのもの...!
あまりの衝撃的事実に唖然としていると、後ろで作業をしていた和久井さんが口を開いた。
「専務はお顔立ちから実年齢より若く見られる事が多いですが、専務自身若く見られる事が1番嫌で、少しでも大人に見せようと日々努力してらっしゃるんですよ」
「え、そうなんですか?」
振り返って和久井さんを見ると淡々と作業をこなす先程と同じ顔の和久井さんがいた。
やっぱりカッコいいわ...。専務だって相当なもんなのにかすれて見える...。
「おい、お前、ニヤニヤしながら余計なこと言うな」
「え!?和久井さん今のニヤニヤしてたんですか!?」
もう一度振り返って和久井さんを見るが、やっぱりその端正な顔から表情筋は1ミリも動いたとは思えない。
な、なんだこいつら...。
なんなら専務の方が、和久井さんの思わぬ暴露に少し照れている様に思える。一緒にいるのが長いのだろうか?それにしてもエレベーターホールで会った時の顔との違いは分からない。
もしかして、エレベーターホールで会った時もニヤニヤしてたとか...?
思考が思わぬ方向に動いた所で、和久井さんが私の前にあるテーブルになにかの資料を並べた。


