「....本当にごめん。なんて謝ればいいか...」
流石に昨日の今日で怒ってるのだろうか。何も言葉を発しない男。
どうしよう。
なんて声をかければいいか分からなくて、俯いていると
「資料、貸して」
そう声がかかった。
「え」
驚いて顔を上げると、男は鞄からノートパソコンを取り出して立ち上げていた。
手伝ってくれるのだろうか。
「いや、でも部署違うから流石に...」
「統計とか、まとめぐらいなら出来る。それにお前一人じゃ間に合わないだろ」
にやっと挑発するように笑う男。舐めないでよ!って普段の私なら言っていたかもしれない。でも今は素直にありがたかった。正直今の私には間に合わせる自身がない。
すみませんと謝って急いでディスクに座り自分のパソコンを立ち上げる。
「おい」
「今概要と資料送りました...ってなに?」
「もうちょい端寄って」
「え?」
意味がよく分からなくてポカンとしていると、男はいきなり私をグイッと押して私の椅子に座ってきた。
「え!ちょ、ちょっと!」
狭い一人用の椅子に二人で座ってる状態。身体の半分が密接してる。
「な、なにしてるのよ!他の椅子使ってください!」
「他の人の椅子、知らない間に使われるの嫌だろ」
「いやいやいや。全然問題ないわよ!なんならこの状況の方が問題よ!誰かに見られたらどうするのよ!」
「ならその誰かが来る前に資料終わらせないとな?」
またもや挑発的な笑みを浮かべて笑う男。狭いし、動きづらい。なんで、どうしてこうなったの!!
私が動揺している中、淡々と業務をこなす彼。意味が分からない。
「...やっぱり私が別の席に..」
どうしても 居心地が悪くて席を移動しようとするとグッと腕を掴まれた。
「だーめ。お前、俺が見てないとどーせつまんないミスするだろ?直してる時間無いんだからな」
ふわっと香るこの男の香りに、握られた腕の力強さに、全身がカッと熱くなっていく気がした。
ーー年下に振り回されるってこんな感じなんだろうな...。
渋々隣に座る私を見ながら満足気に微笑む彼を見て、また全身に血が巡った。


