「おめでとうございます。妊娠されていますよ!」豊子は優しい眼差しをエコー画像に向け小さな命を確認した。
 産院を後にしてお腹に手をあてる。
 夫の幸夫にラインを送った。『今産婦人科で妊娠してたよ❤️』
 
 その頃夫の幸夫は、営業で外出中。助手席に座る部下の山下マリカはメーク直しをしながら幸夫に尋ねる。
 「今度はいつ会えるの?もう2週間も経つよ?また旅行とかいこうよ。」
 「あぁ、そうだな~。マリカと旅行にまた行くか!」
 「そうこなくっちゃ!草津温泉は?」
 「おっいいね~草津温泉かぁ~あ~くそっ!赤信号だ。ついてねぇな~」

 ピンポーン
 豊子は急いでインターフォンに駆け寄る。「はい」
 画面に黒い帽子をかぶった女性が映る。
 「あの、向かえに引っ越してきた鍵沼といいますがごあいさつに伺いました。」
 「ちょっと待ってください」
 豊子が門へ行くと、黒いワンピースを来た色白の女性がそこに立っていた。
 「こんにちは、鍵沼百合といいます。これつまらないものてすが、私が焼いたパンです。どうぞ…」
 焼きたてのクロワッサンが湯気で袋をくもらせている。
 「美味しそうなクロワッサン。私は須藤豊子です。わからないことがあったら、遠慮なく聞いてください。ここはまだ家が建たなくて寂しかったの。お迎えさんができて嬉しいです。」
 「豊子さんって呼んでもいい?」
 「ええ、じゃあ私は百合さんと呼びます」
 「豊子さんもしかして具合悪い?顔色があまりよくないみたいだけど」
 「……、実はつわりなの」
 『あら、おめでとう。何ヵ月?うちにももうすぐ一歳になる男の子がいるの』
 「まだ2ヵ月なの。男の子がいるの?ご近所に年の近いお子さんがいるなんて嬉しい。」
 豊子はつわりで食欲がなかったが、百合からのクロワッサンがとてもおいしく久しぶりにちゃんと食べられた。