どのくらい苦しんだのか分からない。
2、3分のことだと思うけど、私には30分はかかったのではないかと思うほど辛い出来事だった。






焦れば焦るほど酷くなるから、とにかく呼吸することだけを意識する。







棚から新しいタオルを出してきて、額の汗を拭こうとすると、最悪なタイミングで入って来たのは、田中先生。






『どうした!?』






ゆっくりとした動きで部屋に入るなり、私の顔を見てか慌てた様子で近づいてくる。






「何も……。大丈夫です。」







額の汗を拭いていると、突然手を取られる。






「え!?」






手を振り切ろうとしても動かない。






『じっとして。』






いつも私に優しいありさのパパは、昨日から私に厳しい。
今も、少し怖い顔……。






そんな田中先生を見たくなくて、目を背ける。






『脈が速いね。』







続いて首に下げていた聴診器を取り出す。
胸元に聴診器を入れようとする。






「ヤダ!」






カチャッ





はっ!?




ありさのパパと思えば思うほど、嫌になり思わず体が反応して、田中先生の聴診器を手で掴んで投げてしまった。







そんなことするつもりでなかったのに……。床に叩きつけた聴診器の音に驚いた。






怒れるっ!





いつも優しいけど、さすがに昨日から私に厳しい田中先生がこんなことを許す訳ない……。





そう思うと、咄嗟に布団を頭から被ってた。






「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ。」







息をしていなかったのか、再び呼吸が乱れ始める。





ダメって、聞こえちゃう。






「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ。」







そう思えば思うほど辛くなる呼吸。






苦しい……。







『美咲ちゃん、落ち着くよっ。』








田中先生が被っていた布団を外して、私の背中を撫でる。






「はぁはぁはぁはぁはぁ。」







『大丈夫だからね、大きく息を吐き切ろう。』





「はぁーはぁはぁはぁ。」






言われる通りに大きく息を吐く。






「はぁ、はぁ、はぁ。」






さっき自分でなんとかしたみたいに、呼吸の乱れが治っていった。







「はぁー、はぁー、はぁー。」





疲れた……。







そして次に田中先生が聴診器を胸に当てた時の私はグッタリしていて、抵抗すらできなかった。






田中先生は、さっき私が聴診器を払いのけたことを何ともない顔で、でも真剣な眼差しで聴診している。