『何があったのか話してもらわないとな…。』
何が……って?
何?
ベッド周りで立っている先生の顔が、こちらに向けられる。どことなくいつもと重い雰囲気で。
何があったのか…って、梶田先生にファミレスを出たところで偶然会ったことのことを言ってる?
私がここに運ばれてきたことが、何が原因なのか知りたいの?
そんなことを知って何になるのかな。だって、もう痛いのはなくなったんだし、とりあえずは治ってるんだし。
『梶田先生から夜にファミレスから出てくるところを見たって聞いたんだけど。何してたのかな?』
はぁ……。やっぱり。
完全に取り調べされてる空気。ありさのパパがいつもと違う。
「何って、友達とファミレスにいただけです…。」
そう言って田中先生の顔を見る。
ありさのパパって、こんな風に怖い人だったっけ……。
『ファミレスに夜にいて、何してたの?』
あぁ、遂に核心に触れてきた。
どうしよ……、ここで素直に言うべきか……。でも言えば、パパに全てがバレてしまうし。
言わなくても、やり過ごせるかもしれない……。
「友達がお腹空いたって言うから、友達がご飯食べてるのに付き合ってただけです。」
『それだけ?美咲ちゃんは?』
「食べてません!何もっ!」
あぁ……、言ってしまった……。
もう本当のことは言えない。
後戻りはできない。
『そう……。その時以外にも、何も食べてないかな?』
「はい…。」
何よ……、何も食べてない?って。
私だって人間なんだよ?食べたっていいでしょ?
なんでそんなに病院の先生だからって、食べるものまで制限されなきゃいけない訳?
それで食べたかどうか、確信がないのに、こんなに疑う言い方しなくても。
失礼極りない……。
そんなことを考えてると、先生達は何やら言い残し部屋を後にした。
それでも私の虫の居所が収まらなかった。先生たちの前で嘘をついてしまっただけに、このままつき通さなくてはいけないのだから、怒っていていいんだ。
不安に思えば思うほど、疑わしい…。
そんなことを考えてると、夕食が運ばれてきた。
さっそくドロドロとした食事…。家での食事よりも薄味で美味しくない。
あのファミレスでの食事を思い出すと、食べれたもんじゃない。
そうだよ……、私はこの何年もの間、こういう食事しかしてこなかった。
こんなに頑張ってるのに、治る訳でもない。そして、この食事が当たり前になってる……。
みんなはこんな食事、絶対に摂らないのに。先生だって、食べたことないのに。よくも食べろって言えるよね…。
そう思うと、悪いことをした自覚は全くなく、むしろこんな食事を摂らされてることに腹立たしさしか湧かなかった。
「こんなの……食べらんないよ。」
お茶だけ飲んで、食べずに寝た。