あれからどうやって田中先生を説得させたのか……覚えていない。
あんなに喉も痛くて、辛かったのに。
『……なんで、電話してきてんだよ……ゲホッ』
耳元に聞こえる藤堂先生の声……。
『なぁ……黙るなよ。電話は用事があってかけてるんだろ?
ゲホ……
なんかあったのか?』
毎日聞いてるのに、電話越しではいつもと違う声に胸の高まりが収まらない。
それでもお互い風邪を引いていて。しんどい気持ちは充分わかっているので、長話はできない。
「ぇっと、えっと……。
心配になってしまって……田中先生から、体調崩されてるって聞いて……。」
『…………。』
「ご、ごめんなさい!切りますっ!」
患者にこんなことで電話されるなんて、嫌だよねっ!迷惑だって思われてる……
『ありがと……』
「えっ!?」
思ってもない返事を聞いて、驚いた。
『……心配してくれてありがとう。』
「あっ、あっ……
突然ごめんなさい。」
普段先生から言われたことのない言葉に、どうしたらいいのか分からず、謝ってしまった。
『一人だったから……寂しかった。
美咲の声、聞けてよかった……。』
え……
『……はは、黙るなよ。
とりあえず、しっかり治せよ。』
えっ?えっ?切られる?
「あ、あのっ……
私も……先生の声が聞けて、
良かった。
だから……早く治して病院に来てくださいっ!」
言えたっ。
「ゲボッ、ゲボゲボケボっ。」
ただ声を聞きたかっただけなのに、聞けた上に言いたいことまで言えた。でもその緊張が一気に取れて……
咳が止まらない。
『大丈夫かっ!?』
「ゲホッゲホッ……大丈夫で……す。」
なんとか返事をして、電話を切った。



