トントン





『入るぞー。』




喉に通らない食事に、悪戦苦闘していると、部屋をノックしながら入ってきたのは藤堂先生。




ノックって、入っていいか確認するものでは…。





毎度そんなことを思うけど、お構いなしの藤堂先生。





『あれ?食欲ない?』





知ってるくせに、ここ数日熱で食べれてないこと……。





『どれどれ…』





山田さんに言われた言葉と、目の前の食事が熱い熱い喉を通っていかないことで頭がいっぱいなところに……





「うわっ!」






『何するんだよ。』





藤堂先生に額を触られ、つい反応してしまう自分。突然手を払われて、とても不機嫌な顔の先生。






「び、びっくりして…つい。ごめんなさい。」





一応謝っておく。





『ちょっともう一回。』





そうやって額を触られて、すぐに白衣のポケットから取り出した体温計を私の脇に挟む。





『そんなにボーッとしてると、メシこぼすぞ。』






からかうように言うけど、こぼれてくれたら…と思ってしまう。
こぼれたら食べなくてもいいのに…。





怠い体と一緒に、食欲もどんどん薄れていく。





『なかなか下がらないな。熱が下がったら前の部屋に戻るんだぞ。』





やっぱりそうか…。






「ここがいい……。」






ボソッと聞こえないように、つぶやいてみる。





『何言ってんだ。ここは今だけ。』






部屋に戻ることも考えると、もう私の頭はいっぱいではち切れそう。
考えることがいっぱい。







『食べないと、体力も落ちて一時帰宅も遠のくぞ。』







「もう帰らないくてもいいし……。」







『そんなこと言うなって。
絶対家でゆっくりしてきた方がいいって。
まあ、今はそれよりもこの熱を下げることが一番だけどな。』





そう言いながら、点滴を速める。





『これ終わったら栄養剤でも入れとかないとな。』





手付かずの食事を見て、呆れたように言う先生。





「もっとおいしかったらなぁ」





美味しいはずがないことも、ドロドロのご飯じゃなきゃダメだってことも知ってる。





何ともならないことだってことも。






それだけど、やっぱりご飯は美味しく食べたいものだよね。





『何にせよ、熱が下がったら前の部屋に戻って、一時帰宅して気持ちを入れ替えてからまた戻ってくること。』






そしたら退院が延びちゃうじゃない……。





そう思うと、素直に藤堂先生に返事はできなかった。