「他の生徒はスーツケースとデカいボストンバッグ持ってただろう?」



確かに言われてみればそうだ。
個々の座席横に置かれていた荷物を思い出す。



『ま、足りないものはどっかで買えばいいかなーって。』



想いの詰まった物なんてないし、なんだってよかった。



「確かにな。
さっぱりしてんな、美都。」



こういう考え方は、さっぱりしてるって言うのか。



『そーですかね?
自分じゃそんなん分かんないです。』



「・・・美都の場合はさっぱりしてんじゃなくて、自分に執着がないって言うのか。」



ボソッと呟く担任に返事を返すのも面倒くさくなって、聞こえてないふりをする。
その代わりにセンセーの声に被せて、スーツケースを乱暴に床に置いて持ち手を引き出した。



視聴覚室は、階段を上がったらすぐそこ。
担任がドアを開けて中へ入って行く。



「待たせたな。」



『こんちわー。』