学校に着くと、後ろから誰かに目隠しされた。
「...ねぇ、カンちゃんでしょ」
「せーかいっ!よくわかったね、私だって」
わかるに決まってる。
毎朝やってんだから。
「葉月、まーた深澤くんに迷惑かけてるの?」
そういってあたしを叱ってくるのは、'カンちゃん'こと藍田 環奈。
アーモンド形の大きな瞳と形のいい鼻と、小さい顔。
透き通る肌にまるで白雪姫みたいに赤い唇。
身長は160cmほどあり、それでいて手足が長い。
髪は真っ黒ストレートで、長さは胸まであり、いつもいいシャンプーの香りがする。
成績優秀、運動神経抜群。
性格も良しという非の打ち所のない美少女だ。
あたしたちは中学校から一緒にいて、高校2年生になった今でも仲良くしてる。
「葉月も一応女の子なんだから、迷惑かけないようにしなきゃ」
「うるさいなぁ、カンちゃんだって毎朝起こしてもらってるくせに!」
ぎくっと体を揺らすカンちゃん。
人のこといえないよね、まったく。
「ねぇねぇ葉月、今日なんかなかった?面白いこと!」
カンちゃんは興味津々といった様子であたしの顔を覗く。
「あ、そういえば」
と言って、あたしの今日の朝の話をする。
話し終わると、カンちゃんが口をあんぐり開けて、こっちを見ていた。
「...なに?」
「いやぁ、葉月、あんたそれはダメだよ」
「え、なにが!?」
焦る。
「だって、深澤くんに、あたしのこと女だと思ってないって言ったんでしょ?」
「うん。なんかダメだった?」
「ダメに決まってんでしょ!!」
そう言って机を拳で叩くカンちゃん。
こ、怖いです...。
とにかくあたしは何がいけないのかさっぱりわからない。
「ね、ねぇ、なにがいけないの?」
「だって深澤くんは葉月が...」
「え?」
「...やっぱいいや。教えられない」
「は?」
「葉月はお子ちゃまだから、まだこの話は早いでちゅよ〜」
「はぁぁぁあ!?なにそれ!!ひどい!!!」
確かにあたしは身長が147cmしかなくて、丸顔の童顔。
ぱっつん前髪に長い髪を2つに結っている。
足は短いし胸は無いし、オマケに勉強なんてできない。
かろうじて運動はちょっとできる。それだけ。
でもその言い方はひどい!ひどすぎる!
あたしは少しでもカンちゃんに反撃するため、キッとした顔で睨んだ。
「あはは、ごめんごめん。それにしても、あんたよく幼なじみの関係続けてるよね。何年間一緒にいるんだっけ?」
「えっと、3歳の時から一緒にいるよ」
「じゃあ14年間か。すごいねぇ」
「でしょ!!」
これはあたしの中で胸を張って言える。
あたしと聖は幼なじみだって。
理由は、聖がなんでもできるイケメンだから。
大きくはないけど切れ長の目に、ほっそりとした顔のライン。
サラサラのちょっと茶色がかった髪が短く切ってある。
程よい筋肉がついた体は180cm近くあって、足なんてあたしの2倍くらいありそうなくらい長い。
成績は常に首位、運動は大学からスカウトが来るほど。
そんな幼なじみがいることを、あたしはいつも誇りに思ってる。
聖には迷惑かけてばっかだけど...。
「葉月はさっ、好きになったりしないの?」
途端にあたしは飲んでいたイチゴミルクを噴き出しそうになる。
「あたしが!?聖を!?好きになる!?」
ありえないっっ!!!
なのにカンちゃんは「えぇ〜?」っていう感じでこっちを見てくる。
「ないないないない!!!だってあたしには...」
「はいはい、わかってるよ。好きな人いるもんねっ」
その通りだ。あたしには好きな人がいる。
そのとき、後ろのドアから「おはよう」と言って教室に誰かが入ってきた。
あたしの体が強ばる。
そう、彼こそがあたしの好きな人。
早川 蒼弥くんだ。