「…それで、このお菓子は何用なんだい?」

意味ありげに尋問を始めるお父さんを他所に、私は本と睨めっこ。

「お父さんてば、この歳じゃ恋の一つや二つするものよ。」

慌てるお父さんを冷静なお母さんが別室へと引きずる音が聞こえる。

「桃、お父さんの事は気にしなくていいから・・・思いっきり当たって砕けなさい!」

できれば砕けたくはないよ、お母さん。

でも、この感情が『恋心』で間違いなかったんだと再確認できたのは良かったな。

「おー、美味そうな匂い!俺にも一つ頂戴。」

「!!?」

心臓が口から飛び出てしまうかと思ったし、たぶん私今、最高に変な顔してる。

家が隣同士のわけあって、望がよく家に出入りするのをすっかり忘れていた。

部活から帰ってきたばかりの彼の頬には土で擦ったような跡と傷ができていて。

「また部活で派手に転んだんでしょ?」

大好きなサッカーが部活って、そりゃあ精が出るよ。

レギュラー入りして、どんどん点数取ってチームに貢献して夢も実現していってる望。

「後輩が思いの他、上達が早いんだよ。先輩の意地でもあるし、少しは格好良い所見せたいじゃん。」

「好きな事を頑張るのも良いけど、勉強にも本腰入れないと推薦貰えなくなるからね。」

望はあからさまに目を背け、また焼き立てのクッキーを口へと運ぶ。

「まぁ…同時進行って事で。桃は人の心配してる余裕あるんだ?ってか志望校決めた?」


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