曖昧な私の背中を押してくれたのは、親友の恵里菜。

「いつも二人のやり取り聞いてるから言うけど、両想いだと思うんだよね。登校初日から秘かに囁かれてるよ。」

そんな噂話はまやかしだ、と心の中の私が言う。

異性と仲が良いだけで標的になるものだと、話に流されてはいけないと小学校の頃の経験で覚えている。

「どっちに転んでも、今までの『幼馴染み』には戻れない。それならいっそ、言わないって手も…」

恵里菜のいつもと違う表情に一瞬、鬼の影が見えた気がした。

「いつまでもウジウジしてると他の子に取られるんだからね?現に数分前、廊下で一組の桜ちゃんがチョコ渡すって仄めかしてたの聞いたんだから。」

いや、あんな可愛い子から告白されて断る選択肢なんてある筈がない…。むしろお願いして付き合ってほしいレベルだ。

「か、覚悟を決めます…!」

「・・・よく言った!」

言わずに後悔するより、言って後悔した方が何倍もいい。

家でお母さんに料理の本を借りて、自分で作れそうな美味しそうなクッキーの写真が載っているページに目を止めると、作る楽しさのせいか段々と胸が高鳴るのを感じた。

試しに作ってみたハートのクッキーは、初めての割には良く出来ていて、お父さんの頬も綻(ほころ)んだ。


_