『……バカじゃないの?なんで……いいよ。あんたがその気なら、あたしも今まで通り、付き合っていてあげる』


今でもときおり夢に見るんだ。


辺りに響く笑声と、チアキが吐き捨てた言葉の数々、僕を見下した冷たい視線。


踏みにじってなお自分にすがりつく僕のことを、憐れとでも思ったのかはわからないけど……その日からも、デートなんかはしたよ。


ただ、違ったのは、チアキが僕に『大嫌い』って言うようになったこと。


『気持ち悪いんだって。ストーカーかよ』


『重すぎ。ちょっとは黙れないの?』


『は?愛してる?……あはは、うけるんだけど。だから言ってるじゃない、

あたしはあんたが嫌いだって』


クラスでは仲のいい恋人を演じながら、いつしか、放課後の教室で彼女が僕を嘲笑うことが日課になっていた。


『ねえ、あたしのこと好きなんでしょ?なら、何だって聞いてくれるんだよね』


『あたしの友達に、あんたの顔が好きだって子がいるの。場所はもう予約してくれてるし、金は払わなくていいらしいから、だから、その子を——』


その頃の記憶は曖昧で、チアキの言葉以外はあまり覚えていない。


哀しかった。


チアキは、僕を、これっぽっちも……。






「……愛してなかったんだね」


沙奈の声が耳に届き、僕は回想から抜け出した。


見回すと、そこは部屋の中。


ベッドの上に横たわる、僕の唯一の愛しい人。


「……そうだよ。チアキはきっと、なんとも思っていなかった。僕はこんなにも、チアキのことを想っていたのに」


ぼやけた記憶に刻まれているのは、僕を蔑み、見下し、嘲笑うチアキの顔。


それでも僕は、彼女だけを、


「……愛していたのに」


身体中から、力が抜けていく。