クラス替えの初日、席が隣だった。


最初はただそれだけだった。


校舎の二階、鮮やかに舞う桜を背景にしてぼんやりと窓の外を眺めている姿が第一印象だった。


なんとなく見惚れていたら彼女は僕に気づいて、八重歯を覗かせながら『よろしく』と言ってくれて。


彼女は茶色がかった髪をショートにしていて、にこやかでよく笑う人だった。


暗くて静かな僕とはまるで対極の人間で、だからこそ僕は彼女の太陽みたいな明るさに惹かれたのかもしれない。


行事にも授業にも積極的で、僕のような人間にも声をかけてくれて、女子からも男子からも人気があって。


目が合うたび、そばを通るたび、言葉を交わすたびに彼女に惹かれていく自分がいた。


そのことを友人に打ち明けて相談したりして、でも僕は付き合うなんて考えていなかったんだ。


クラスメイトってだけでよかった。


なのに……六月の放課後、僕ら以外は誰もいない二人きりの教室で彼女は言ったんだ。


『付き合おう』って。


どうしてバレたのか不思議で恥ずかしかったけど、断れるはずがなかった。


だって、僕も彼女のことが好きだったんだから。


『ね、あたしのこと好きなんでしょ?
 あたしも好きなの。付き合おうよ』


『……僕でいいなら』


初恋だった。


本気の恋だった。


名前を呼ばれることが幸せで、僕は嫌われないよう必死に愛をささげた。


『好きだよ。愛してる』


『あたしも』


……彼女の名前が、チアキ。


僕の、大好きだった人。