『今度はどこに行く?水族館とか、いいよね』


『ねえ、あたしのこと好きなんでしょ?……ふふ、あたしも好き』


思い返されるあの記憶。


僕はチアキを……。




『大好き、って言うと思った?……あはは、笑わせないでよ。あんたなんて、大嫌い』




——あいしていた。


「……良いよ。教えてあげる。沙奈が、そんなに知りたいんだったら」


……本当は、思い出すだけでなんともいえない気持ちが喉元まで込み上げてくるのだけど。


それは、鈍い、冷たい、痛い感情。


目眩と軽い吐き気を覚えて、僕は壁に背をずりながら床に座り込み、足を投げ出して目をつぶった。


「……気が、進まないけど」


「……うん」


……なにをどう話せばいいのか、わからないままに。


「……チアキは……僕が、愛していた人」


僕が焦がれていた、彼女の名前。


「……出会ったのは四年前。高校二年の時だった」


まぶたの裏の闇に浮かぶのは、鮮やかに舞い散る桜と……記憶から完全に葬りたい、チアキの笑顔。


「……付き合い始めて。その頃は、幸せだと……思って、いたのに」


頭痛がする。


この胸を押しつぶされるような苦しみは、きっと誰にもわかってもらえることはないことを僕は知っていた。


それが例え、母だろうと、友人だろうと、沙奈であろうと。


「もう、チアキはいない」


彼女の存在が夢であればよかった。


夜が更けていく空気に身を委ね、僕は沙奈に語る。