映画のセリフなんて、もう何も聞こえてはいなかった。
「一人目は、中学一年生の時。モテる茶髪の不良に告白されて、まんざらでもなかったから承諾したんだよね。けど、二年の時、そいつが浮気して別れた」
沙奈を横目に見るけれど、彼女の顔はどんな表情も浮かべることなく、僕の声を聞いているようだった。
「二人目は高校一年生の六月。相手は爽やかな優等生で。結構長く続いたけど、次第に態度が冷たくなってきて、別れを切り出された」
酷い奴らだと思う。
そして、バカな奴らだとも思う。
どうして沙奈を捨てたのだろう?
どうして彼女と別れたのだろう?
こんなにも美しくて、愛らしいのに。
「僕はそいつらみたいに、軽い気持ちで沙奈を愛したりはしない。本当に沙奈を愛しているのは、僕だけだ」
「……そう」
沙奈は声を沈め、それ以上なにかの言葉を発したりはしなかった。
映画は紆余曲折の末にバッドエンドを迎え、DVDをケースに戻しながら沙奈に訊く。
「もう一本映画を見る?それとも昼食にする?」
「……昼食、にする」
「わかった」
スクランブルエッグでも作って、トーストの上に乗せて沙奈と一緒に食べよう。
沙奈ならきっと美味しいと頬張ってくれるはずだ。
だって、僕の愛情を一心に注いでいるから。
「作ってくるよ。だから……大人しくしてて」
扉に鍵をかけ、玄関に放りっぱなしだったナイフを拾い上げてキッチンに向かう。
脳裏をよぎる、友人の切なげな顔を掻き消して。



