「おはよう、沙奈。気分はどう?」


翌朝、沙奈の部屋を訪れた僕は沙奈が横たわるベッドの端に腰を下ろし、彼女に問いかけた。


沙奈は小さく口を開きかけ、何かを発しかけてまたその唇を閉ざす。


その様子が愛らしくてたまらなくて、僕は沙奈の頰にキスを落とした。


一瞬、沙奈は身体を揺らして身体に力を入れる。


「お腹は空いた?何でも作るよ」


「……減ってないから、いい」


「そう」


期待外れな返事ではあったけれど、沙奈がそう言うのなら仕方のないことだ。


めげずに話題を探し、沙奈と言葉を交わす。


「何か欲しいものはない?」


「……欲しい、もの?」


「食べたいものとか、CDとか。一日中眠っているのも退屈だろう?」


「……本が、読みたい」


「……あぁ、ごめん。本は無理なんだ」


自分で訊いておきながら少し申し訳ない気分になって、沙奈の髪を撫でる。


「どうして?」


「いや……無理なんだ。僕はあんまり、君に顔を見られたくなくて」


……こんな顔、僕自身も見たくない。


ましてや、沙奈になんて見せられるわけがない。


「……ごめん。何もない部屋だから、きっと退屈なんだと思うけど。そうだ、なにかの映画でも流しておこうか?」


提案すると沙奈は納得してくれたようで首を縦に振り、わずかに口角を上げた。


沙奈と話せることが嬉しくて、僕は話題を続ける。


「何の映画がいい?借りてくるよ」


「……ミステリーがいい」


「わかった。ミステリー、僕も好きなんだ。僕の部屋にテレビがあるから、先に置いておくね」


一応鍵を閉め、自室の端に追いやられた数ヶ月以上電源をつけていないテレビの前に立つ。