「夢さんっっ!」


 律紀は急いで車を泊めて、彼女の元へと駆け寄った。


 「律紀く…あ、律紀さん。突然ごめんなさい。どうしてもお話ししたい事があって。」
 「夢さん、どうしてこんなところに……ずっと待ってたんですか?」
 「………うん。前に律紀さんもこうやって待ってくれたでしょ?だから………。」

 
 夢が言っているのは、初めて夢に会いに行った事だろう。
 確かに外で待っていたけれど、それは男の自分が勝手にしたことであるし、どうしても夢に会いたかったからだった。
 しかし、夢は寒さに弱いはずだった。特に怪我をしている左腕は冷えると動かなくなると夢が話していたのを覚えていた。忘れるはずがなかった。


 「顔も真っ白だし、震えてますね。左腕、動かないんじゃないですか?」
 「……これぐらい大丈夫だよ。」
 「何時間待ちました……?」
 「………1時間かな。」
 「嘘ですよね?」
 「………えっと、3時間ぐらい。」


 それを聞いて律紀は、頭に血がのぼっていくのを感じた。あまり怒らない性格だと思っていたけれど、今は我慢出来なかった。


 「何やってるんですか!女の人で、人一倍体を冷やしちゃいけないのに。」
 「律紀さん………。ごめん、なさい。」
 

 大きな声を出して怒る律紀を見て、夢は驚き、そしてすぐに落ち込んだ表情を見せた。彼女はうろたえ、そして目が泳いでいる。
 震えが大きくなったのは寒さのせいだけではないのだろう。

 そんな夢の右手首を掴んで、律紀は歩き始めた。彼女の腕は、氷のように冷たくなっていた。


 「あの、律紀くん?」
 「……家に入ってください。そんな状態では帰せませんし、僕に用事があんですよね?」
 「はい…。」


 彼女は弱々しく返事をすると、黙って律紀の後について歩き始めた。


 どうして怒ってしまったのだろうか。
 彼女に会いたかったはずなのに、泣かせてしまった事を謝りたかったはずなのに。
 そして、家の前に居る彼女を見た瞬間、胸が高鳴りとても嬉しかったはずだったのに、また彼女を悲しませてしまった。

 寒い中待っていてくれた事に感謝をしなければいけないのにそれが出来なかった。
 そんな自分が情けなくて仕方がなかった。