「自分の気持ちに正直になることは難しい事よ。それが出来たならあとはもう決まってるわ。」
 「僕たちは、久しぶりの日本だからいろいろなお客さまに挨拶を兼ねて全国まわるから、あと数ヵ月は滞在するつもりだよ。」
 「また、会ってもらえますか?」
 「もちろんよ。だから、行ってきて。彼のところへ。」


 空と絵里の言葉と笑顔に背中を押され、夢はすぐに立ち上がった。

 そして、「すみません!失礼します。」と、彼らにペコリとお辞儀をして急いで部屋から飛び出した。
 高級料亭の廊下を駆け足で駆け抜ける。和装をした店員も驚いた様子だったけれど、夢は気にせずにそのまま店を出た。


 まだ傷口が痛む右手の中には、ひび割れた緑の鉱石のキーホルダーがあった。
 夢はそれを見つめた後に、またギュッと握りしめた。

 夢はそのまま寒空の下を走った。
 夢の気持ちは、律紀のばかり考えていた。



 「律紀くん………ごめんね。私、きっと何にもわかってなかったんだ。」


 彼の気持ち、彼の昔、そして、優しさの意味。
 一緒にいて彼の気持ちがわかっていなかったのは自分の方だった。
 それなのに、「相手の事を考える」なんて事を彼に伝えていたのだ。

 彼は恋人以上に大切にしてくれていたのだ。
そんな事も、気づかなかった自分が、夢は情けなくて仕方がなかった。 

 
 早く律紀に会いたい。
 会って謝って、許してもらえたのならば、時分の気持ちを伝えたい。

 
 ハラハラと夜空から小雪が舞い降りてきた。
 夢は、それに目もくれずに彼の元へと走った。
 
 右手の鉱石から、何故か温かさを感じ、夢は力が出てくる。そんな錯覚を覚えながら、走り続けたのだった。