夢は母親との電話を切った後、すぐに自宅に戻った。
 パソコンのメールを確認すると、確かに夫婦の名前がそこにはあった。夢のメールの受信ボックスには武藤空という名前で埋め尽くされていた。
 武藤夫妻はいろいろな国を転々としており、いつもその国の写真を送ってくれるのだ。少し前はギリシャにいたようで、自然豊かな島の写真を送ってくれていた。

 そのため、夢と両親が武藤夫妻の元を訪れようとしても、なかなか会えないとわかり二本に来るまで待とうということになっていたのだった。
 そのためかなりの月日が経ってしまったけれど、ようやく直接彼らにお礼が言えるのだ。

 夢はそれを思うと嬉しくなり、そして少し緊張した。
 彼らが救ってくれた命。武藤夫妻に恥ずかしくなく生きていただろうかと思うと、自信がなくなってきてしまいそうだった。




 それでも何とか電話で連絡を取り付けて明日の夜に会うことになった。
 もうすでに日本にはいるようで、武藤夫妻はとても楽しみにしていると言ってくれていた。
 夢が、1度も会ったことがない命の恩人だ。緊張しないわけはなかった。
 けれども、やっとお礼を言えるのはとても嬉しかった。


 律紀にも連絡をしたかったけれど、今は目の前のことを済ませてからにしようと、夢はスマホで律紀の連絡先を見つめながらも、連絡はせずに、バックにしまった。


 きっとこれが終われば過去の話も聞けて、お返事も伝えられ、そして右手の傷も少しずつ癒えていくはずだ。
 左腕の怪我は変えられないけれど、怪我の事を怖くて痛くて、苦痛を与えてくれただけとは思えなくなるような予感を夢は感じていた。


 「全部済ませてからに、会いに行くね。律紀くん。」

 夢は小さくそう呟きながら、強く決心した。