18話「魔法の言葉」





 失恋をした後も、次の日はやってくる。
 それは、夢にももちろん同じだ。


 昨日の夜は、涙が枯れるまで泣き続け、夢は律紀を忘れようとした。
 けれど、そんな事は出来るはずもなかった。

 最後に投げつけた言葉。
 どうして、あんな事を言ってしまったのか。
 夢は思い出しては後悔していた。
 
 契約の恋人は、夢から持ちかけたもの。
 それを承諾して、恋人としての時間をくれたのは律紀だった。
 感謝をしなければいけないのに、夢は彼に対して強く怒ってしまった。
 
 きっと律紀も呆れ、怒っているだろうと、夢は思っていた。
 その証拠に、夢のスマホには何の連絡もなく、きっと律紀は今ごろ異国の地にいるのだろう。

 忘れないと辛いだけだと思って、必死に忘れようとする。けれど忘れられるはずもなくて。
 夢は、しばらくの間は、律紀の片想いをしていようと思った。



 



 この日は、仕事はもともと休みにしていた。
 いつもよりゆっくりと起きる。
 やはり泣くと言うのは体力を使うようで、夢はかなり熟睡してしまった。
 目の腫れはまだあったけれど、これぐらいならば化粧で誤魔化せると思い、夢は安心した。
 

 今日は、律紀の先輩でもある理央の元へ行って右手の抜糸をしてもらうのだ。
 鉱石を取り出したのは理央の知り合いの外科の先生がやってくれたが、抜糸は理央にしてもらう事になっていた。引き継ぎしていれているようで、理央にも「安心していいからね。」と言われていた。

 理央は午後から休診で時間があるようで、診察時間外で夢を診てくれるそうだった。
 申し訳ない気持ちもあったけれど、小児科の病院だったので、夢もありがたくそうしてもらう事にした。