「はい。私の右手にあった、光る鉱石です。最近、理央さんに病院を紹介してもらって取りました。」
「そんなっ………大切な物だって前に話してましたよね。」
夢は自分の右手を見つめる律紀に気づいたけれど、掌は見せるまいとぎゅっと右手を握りしめた。
まだ傷口が痛いけれど、その痛みが夢を冷静にさせてくれているようだった。
「律紀さんが今まで1番この鉱石を嬉しそうに見てくれていました。誰よりも……きっと、私よりも。だから、持っていてください。」
「そんな………。」
「私の手にあった物なので、気持ち悪かったりして嫌だったら処分してくれてもいいので。」
「そんなことはしないです!」
律紀は、夢が聞いたことがないような大きくて強い声で、そう言った。
夢は体が震えそうだったけれど、毅然とした態度で、まっすぐに彼を見据えたまま「なら、よかったです。」と、返事をした。
「律紀さんはアメリカに行きますし、私の右手には鉱石がなくなったので、もう実験はなしですよね?それと、契約の恋人という関係も。」
「僕は、そんな事………!」
「じゃあ、契約恋人をまだ続けるんですか?」
「それは………。」
律紀は、言葉を濁して夢から視線を逸らした。
それ見た瞬間に、夢は「あぁ、この人は恋人を続けたいわけじゃないんだ。」そう、夢はわかってしまった。
「私の我が儘に付き合ってくれて、ありがとうございました。もう、おしまいにしましょう。………あんまり上手に恋人同士の事、教えられなくてごめんなさい。」
「えっ……夢さんっ!?待って!」
夢は言い捨てるようにソファから立ち上がり、研究室から出ていこうと小走りで駆け出した。
もう渡したかった物渡したし、言いたかった事も言った。
律紀への自分の気持ちは、自分だけに留めておく。夢はそう決めたのだ。
彼には想い人がいる。
結果が、わかっているのに、彼に好きだと言う気持ちを言えるほど、夢は強くはなかった。