「夢さん、でしたっけ?」
 「…………はい。」


 声を掛けられて、研究室に自分以外の人間がまだ居たことに気づいた。
 そこは、望月がいたのだ。

 テーブルに置いたノートパソコンを片付けながら、夢の方を見ていた。
 その表情は、ニヤリとした含みを持った笑みで、あまり気分がいいものではなかった。


 「その右手の鉱石を、望月先生が見ていたんですよね?実験体のために。」
 「実験体……………。」
 「そうですよね?でも、もう望月先生に会う必要もなくなりますね。」
 「…………それは。」


 望月は威嚇的な言葉を使って、夢を攻めるように話し始めた。夢は傷つきながらも、なんとか取り乱さずに彼女の話しを聞いていた。
 夢が何か反論をしようと口を開くけれど、何も言えない姿を見て、望月はフンッ鼻をならして冷たく笑った。


 「アメリカで同じものが見つかったら、実験をする必要はない。あなたはもうここに来る意味も先生と会う理由もなるって事です。」
 「でも!!」
 「あぁ、もしかして契約で恋人になってる事ですか?」
 「どうして、それを…………。」


 望月の口から出た言葉を聞いて、夢は体を硬直させた。
 夢と律紀の偽りの恋人の契約。
 それは、当人である2人しか知らないはずだった。
 それなのに、どうして彼女が知っているのだろうか。


 「あぁ、安心してください。先生が話したわけじゃないですよ。そんな事、先生がするはずないじゃないですか。」
 「そんな事思ってない!」


 ついに夢は、気持ちを押さえられなくて声を荒げてしまった。
 律紀の事を悪く思っているなど、夢にはあり得ない事。それだけは否定したかったのだ。


 「………そうですよね。嘘でも恋人だったんですから、少しは先生の事知ってますよね。」
 「…………何が言いたいの?」
 「夢さんは、知ってるのかなって思って。先生にはずっと想ってる人がいるんですよ。」
 「え………。」


 そんな話しは聞いたことがなかった。
 律紀に昔から好きな人がいた。
 じゃあ、偽りの恋人を引き受けてくれたのは何故?


 ………全て、その人のため?