「夢さん、ご飯食べますか?って言っても、昨日夢さんが作ってくれたおじやしかないんですけど………。」
 「私は1回家に帰ってから出社するから、大丈夫だよ。おじやの残りは律紀くんが食べてくれると嬉しいな。あと、作り置きした料理が冷蔵庫に入ってるから、それは夕飯に食べてね。」
 「え!?そんな事までしてくれたなんて。夢さん、ありがとうございます。」
 「気にしないで。じゃあ……。」


 夢がしわしわになってしまった服を整えながら、帰ろうとする。すると、律紀は「夢さん、これ。」と、何かを夢の右手に優しく押し付けるように渡した。
 思わず受け取ってしまい、右手にあるものを見て驚いてしまう。
 

 「えっ……何で、お金なんか……。」
 「いろいろ買い込んで来てくれたし、料理までしてくれたから。材料費ぐらい出さないと。」
 「そんなのいいよ!それにこの金額は多すぎる。」


 夢の右手の中には万札が2枚あった。夢は、律紀に返そうとするけれど、彼は顔を横に振って全く受け取ってくれなかった。


 「……夢さん、僕は夢さんに全部やってもらっているのに、何も返さないなんて嫌だよ。」
 「でも……ほら、恋人としてやっただけだから、ね?」
 「恋人なら尚更だよ。食材準備して、家まで来てくれて、料理もしてくれて。それで何もしないなんて、そんなの僕はヒモみたいじゃないですか。」
 「そんな……ヒモなんて。」
 「とにかく!これは譲れないのでっ!」


 律紀はそういうと、夢の右手を両手でぎゅーと押さえ込んだ。
 律紀は、考えを変えるつもりはない様子だったので、夢は渋々「ありがとう。」と言って、今回は受けとることにした。
 彼の頑固な一面が見れたのには驚きだった。

 年下なのに、こんな所まで気を使えるのは彼の良い所なのだろう。こんなに慣れているのに、彼女が今までいなかったというのが不思議だった。