「写真撮ってもいいかな?」
 「………え?……写真ですか?」
 「うん。人の傷跡を写真に撮るなんてダメなことだってわかってる。しかも、夢さんは気にしていたもんね。………だけど、こういう石が大好きな知り合いがいて、どうしても教えてあげたいんだ。」
 「……えっと………….。」
 「写真、お願いしてもいいかな?」

 自分の期待とは大きく外れた答えに、夢はがっかりとしてしまう。
 彼は、自分に興味を持ったわけではなく、知り合いのためにこの石に興味を持ったのだ。

 気持ち悪いと言われたわけではない。
 けれども、少しだけ切ない気持ちになってしまう。


 「はい。1枚だけ、なら。」


 気づくと、そんな事を言ってしまっていた。
 夢は自分の傷など、どうでもよくなってしまった。

 自分でもわかっていた。
 左腕や、傷跡、そしてこの石のせいにして、何からも逃げてしまっている事に。
 だからこそ、それを隠して人の優しさを求めてしまう。
 それでは、誰からも理解されないと知りながらも、何もない自分を知られるのが怖くて仕方がなかった。

 写真を撮った後も、理央はいろいろな話しをしてくれて話を盛り上げてくれたけれど、夢の頭の中は何も考えられなくなっていた。





 「夢!大丈夫?」
 「………千景さん……。」
 
 合コンが終わり、解散になるとすぐに千景が夢に近寄ってきた。
 心配そうに顔を覗き込んでくれる。


 「理央さんと何か話してると思ってたけど、その顔だとあんまりいい事じゃなさそうね。」
 「………右手を見られてしまって。でも、理央さんは気持ち悪がったりしませんでした。」
 

 夢が人前で右手を隠すのは、掌に埋め込まれたようにある小さな石を見ると、怪訝な顔をして気持ち悪い物を見るような顔をされることが多いからだった。
 いくらキラキラ光る鉱石だとしても、体の中に異物が入ってるのは、気持ち悪い物なのだろう。

 夢はその表情で見られることが、怖くて不安だった。自分自身がそんな風に見られているようで悲しくなってしまうのだ。