「危ない!……夢さん?大丈夫?」
 「ご、ごめんなさい………。」


 夢が落ちそうになった瞬間。律紀が体を抱えてくれたお掛けで、なんとか惨事になることはなかった。
 けれど、律紀に支えられた体は、まるで彼に抱き締められているようで、夢は一気に顔を赤くして恥ずかしくなってしまった。
 咄嗟に律紀から離れ、夢は視線を下に向けた。


 「律紀くん、その……ありがとう。助かったよ。」
 「いえ………。どうしたんですか?何か体のバランスを崩したように見えたんですけど。」


 律紀は床に落ちたブランケットを広いながらそう言い、そして心配そうに夢の顔を覗き込んだ。夢は、真っ赤になっか顔を見られるのが恥ずかしかったが、律紀が心配してくれているので、おずおずと彼の顔を見つめた。


 「前に少しだけ話したことがあるけど、左腕が少し不自由なんだよね。普段の生活には支障はないんだけど、寒い日になると動きづらくなってしまって………。今日は、朝から調子が悪いのを忘れて左手を急に伸ばしたから、バランスを崩しちゃったの。……律紀くん、心配させてごめんね。」
 「…………そんなに左腕が悪かったんだ。………僕の方こそ、ごめんなさい。」


 律紀は何故か泣きそうな顔をして、夢に謝った。そして、優しく、左腕に温かいブランケットを掛けてくれた。

 また、あの顔だ。
 寂しそうで、悲しげなこちらまで、切なくなる表情。
 何故、律紀がそんな顔をするのか。
 夢が無意識に彼に向かって右手を伸ばした。