夢がそういうと、律紀は少しばつの悪そうな表情を浮かべた。律紀は自分のためを思ってしてくれた優しい事なのに、何でそんな顔をするのかわからなかった。


 「これ言っちゃうとすごくカッコ悪くなるんですけど………。話してもいいかな?」
 「律紀くんが話してくれるなら。」


 そう言うと、少し躊躇い恥ずかしそうにしながら理由を話してくれた。


 「実は、初めてデートをするからいろいろ教えて欲しいと理央先輩に聞いたんだ。」
 「え…….。」
 「夢さんに楽しんで貰いたかったし、少しでも恋人らしくしたかったし。でも、理央さんが忙しくて車での事しか聞けなかったから。だから、それだけやってみたんだ。……ごめん、カッコ悪いよね。」
 「律紀くん……。」


 夢はその話を聞いて驚いてしまった。
 彼がそんな相談を理央にしていた事も、そしてこのデートで夢のためにいろいろ考えていてくれた事も。
 カッコ悪いはずがなかった。
 律紀は夢のために動いてくれたのだから。
 夢にとって、その気持ちがとても嬉しいのだ。


 「かっこ悪くないよ。それこそ、私のためを思って行動してくれたんだよね。」
 「人に教わったことしか出来てないのに?」
 「律紀くんは、映画館で泣いてる私の涙を拭いてくれた。それに、研究室の私用のコップを、選んで買ってくれた。それって、私のためにしてくれた事だよね?」
 「そうだけど……。」
 「私は嬉しかったよ。律紀くん、ありがとう。」

 
 自分が本当に嬉しかったことを律紀に伝えたくて、ニッコリと笑顔で彼にお礼を言うと、律紀は驚いた顔をした後に、くくくっと笑っていた。

 「え………なんで笑うの?!」
 「だって、そんな事で本当に嬉しそうに笑うなんて。」
 「………だって嬉しかったんだよ?」
 「ごめん。……僕もそう言って貰えると嬉しいし、少し自信が持てる、かな。」
 

 先ほどまで「難しい。」と言って、不安そうにしていた律紀だったけれど、今ではいつもの爽やかな微笑みに戻っていた。
 自分が伝えたかった気持ちが、彼にしっかりと理解して貰えてホッとした。