「僕は研究者だから、結果を見て判断するのは得意だよ。なんで、そうなったのか過程を考えたり。けれど、映画の人みたいに人の心を予想して行動するのは、難しい。……人の心は不安定だから。」
 「……律紀くん。」
 「………でも、あんな風にお互いに気持ちを分かりあえるのが、恋人ならば少し羨ましい気がするかな。」


 律紀は寂しそうに苦笑いをして、先ほど運ばれてきたばかりのコーヒーを一口飲んだ。

 映画を見ながらそんな事を考えていたのだと思うと、夢は何故か切ない気持ちになる。主人公の彼氏に自分を置き換えて、「あれは俺にはわからない。」「どうして出来るんだ。」そんな事を考えていたのだろう。

 夢の願いを叶えようと、恋人らしさを考えてくれていた彼の方が、とっても優しくて素敵なのに。


 「あのね、律紀くん。私、思うんだけど……まずは自分だったらどんな事をされたら嬉しいかを考えればいいんじゃないかな。」
 「自分がされて嬉しいこと?」
 「そう。相手の立場になって、今こんなことをされたら嬉しいなーって考えてみて、それをやってみるの。それで、喜んでくれたり、嫌がられたりしていくうちに、相手の事が少しずつわかっていくのかなって。」


 偉そうなことを言っても、自分も律紀をわかっているわけではない。
 けれど、彼と過ごしていく内に知っていけるだろうと思っているし、知りたいと夢は思っていた。
 2人は出会ったばかりの関係だから、お互いに手探りなのは仕方がない。
 けれど、夢は彼には出来ると思っていた。


 律紀は眉間にしわを寄せて、深く考え込みながら、唸るように「難しい……な。」と言った。
 そんな様子を見ていると、普段は年上に見えるのに、今は年下の男の子に感じた。そんな彼を夢は、微笑みながら見つめた。


 「大丈夫。律紀くんには難しくないよ。」
 「そうかなぁ……。人の心は予測出来ない。特に女の人には。」
 「律紀くん、今日はとてもデートに慣れてるみたいだったよ?車のドアも開けてくれたり、ブランケットを貸してくれたり。」