彼に話しても大丈夫じゃないか。
 そう思えてしまうぐらいに、彼の瞳や物腰はとても柔和でホッとさせてくれる物だった。

 律紀の笑顔を見ていると、年下なのに甘えてもいいのだろうかと思えてしまうから不思議だった。


 「………笑わないでね?」
 「笑わないよ。」
 「………もっと恋人らしい事したいなぁーって思ってたのです。」


 少し伏せ目がちに、律紀を見ながら恐る恐るそう口にしてしまう。
 恥ずかしくて彼を見ていられなかったけれど、どんな反応をするのか不安で彼を見つめた。

 すると、律紀は笑いもせず、そして呆れ顔も見せずに何故かホッとした表情になったのだ。


 「なんだ……そんな事か。よかった、安心したよ。」
 「え?」
 「いや、同じことなのかもしれないけど、恋人らしくないから、恋人役失格かと思った。」
 「そんな事ないよ。律紀くんは、優しくしてくれるし、それに……。」
 「でも、恋人らしくないんだよね?」


 そう問われてしまうと、夢は返答に困ってしまう。
 確かに彼と過ごす時間はゆったりとして穏やかかもしれない。
 でも、夢はドキドキした時間も感じてみたい。気になる相手である、律紀と一緒に。
 本当の恋人でもないのに、そんな事を頼むのはおかしいとわかっているけれど、恋人契約をしているとなればお願いできるのだろうか。
 迷いながらも、夢は頷く。


 「始めにも話したけど、僕は恋愛経験もほとんどないし、女の人がどんなことをしたら喜ぶのかなんて全然知らないんだ。だから、僕はそういうのも知りたいって思ってる。……夢さん、僕に教えて?夢さんがして欲しい事って、どんな事?」


 律紀は真剣な顔で、夢に質問した。
 彼は夢の願いを叶えようとしてくれているのだ。

 彼がどうして女の人が喜ぶことを知りたいのか。
 それを考えると、胸がチクリと痛んだけれど、夢は今はそんな事を考えるのを止めることにした。


 彼との契約の恋人関係だとしても、彼に甘えよう。そう決めたのだ。


 その関係が終わりを迎えたときに、後悔しないように。
 律紀との契約関係の時間だけでも、彼に甘えていたい、と夢は思った。