「あの、今のは……。」
「いいですよ。」
「え……。」
今、彼は何と言ったのだろうか。
予想外の言葉に、頭が追い付かない。
「僕、恋愛経験がほとんどないので、先輩に教えていただきたいぐらいです。」
「………本当に?」
「恋愛ごっこですよね?実験をさせてくれるのであれば、喜んでお願いいたします。」
ニッコリと笑った彼の笑顔。
それがとても冷たい物のように感じてしまったのは、きっと彼の言葉のせいだろう。
自分からお願いしたことなのに、傷付くのはおかしいとわかっている。
けれど、とても切なかった。
彼の目的は右手の鉱石であって、恋愛ごっこはそれの報酬なのだ。
実験をするのに変わりの行為。
夢は、目から涙が出そうになるのをグッと堪えた。
全て自分が悪いのだから、泣いてはダメだ。そう言い聞かせて、律紀の方を向いてニッコリと微笑んだ。
上手に笑えているかはわからない。
けれども、誤魔化すしかないのだ。
「では、よろしくお願いいたします。彼氏さん。」
「こちらこそ。よろしくお願いいたします。」
ペコッと頭を下げて、律紀は少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。
こんな事になっても彼に会える事が楽しみな自分がいる事に、胸の高鳴りでわかってしまった。
そんな己の気持ちに嫌悪をしてしまい、右手を強く握りしめていた。