「今の私にも、律紀くんが好きって言ってくれる絵、描けるかな…………。」
 「……………夢さん、十七夜の意味って知ってますか?」
 「………私の苗字の意味?」
 「昔の人は満月の2日後の17日の月に願い事をすると叶うと言われていたそうですよ。それで、夢さんのように十七夜はかのうと読むようになったんです。」
 「夢が叶うから………そうなんだ。」
 「夢が叶う、っていう名前、とっても素敵ですよね。」
 「うん…………。」
 「だから、きっと夢さんの願いも叶います。」


 律紀はぎゅっと夢を抱き締めて、そして月を見上げた。それに倣うように、夢も綺麗に輝く月を見た。


 「今日の月は少し欠けてますね。もしかして、十七夜でしょうか?」
 「ふふふ、そうかもしれないね。」
 「じゃあ、お祈りしましょう?」
 「うん。2人で絵本をつくれますように。」
 「じゃあ、僕はもっと夢さんが僕を好きになってくれますように。」
 「ええー!なんで絵本の夢じゃないの?」
 「夢さんがお願いすれば叶うので。」


 クスクスと笑う律紀を、夢は少し不満そうに見つめる。
 同じ願いをお願いすると思っていたのだ。


 「私はとーっても律紀くんの事が大好きだよ?1番大切だよ。」
 「………それが聞きたかったんです。」


 意地悪な顔を浮かべて「すみません。」と言いながら笑う律紀を、夢は真っ赤になりながら見つめる。
 この年下くんは、少しずつこうやって余裕な態度を見せるようになってきた。
 きっと彼に翻弄される日も近いのだろうな。なんて思いながらも、夢は彼の甘い言葉が好きなので、楽しみでもあった。

 

 「お願いしたので、きっと叶いますね。」
 「もう叶うよ………。」
 「………っっ………!!」


 夢は負けたのが少し悔しくて、自分から律紀の唇にキスをした。短く触れるだけのキスだったけれど、初めての夢からのキスに、律紀は驚き、そして顔を真っ赤にさせていた。
 夢は、ニッコリと笑って「ね、叶ったでしょ?」と言うと、律紀は照れ笑いを浮かべた。
 それはとても嬉しそうで、幸せそうなものだった。


 「やっぱり夢さんにはまだまだ敵いませんね。」


 抱きしめ合い、2人は顔をよせてくすくすと笑った。
 



 月に願った願い。
 1つはすぐに叶った。
 もう1つの2人の願いも、きっと現実のものになる。
 夢と律紀はそう確信して、微笑みあったのだった。



            (おしまい)