「あのさ…」

相手がゆっくりと口を開く。きっと素敵な返事が待っている、そう俺は本気で思っていた。しかし、相手の口から出たのは、信じられない言葉だった。

「ありえねえわ」

その冷たい言葉に、先輩の目が見開かれる。時が止まった気がした。

相手は、先輩に好きな人がいると俺に言った女子のような目で先輩を見ていた。

「俺さ、もっと可愛げのある女子の方がいいわ。しっかり者とかみんな言ってるけどさ、失敗ばっかだし尻拭いをする俺の身にもなれって話だよ。俺の評判落としたくなかったから、一緒にいたけど、告白とかありえねえわ。バイバ〜イ」

先輩を残し、相手は先に帰っていく。先輩は何も言わず、その人を追いかけようともせず、ただ立ち尽くしていた。

しばらくして、先輩が傘を閉じる。先輩の体は一瞬で雨に打たれ、濡れる。水たまりがあちこちにできた道に、先輩は座り込み、泣き出した。

俺の足は、自然と動いていた。先輩に自分の傘を差し出し、先輩がこれ以上濡れないようにした。俺が濡れることなんて、どうでもいい。