「一緒に帰ろうね」

小さな声で先輩がささやく。俺の胸が高鳴る。

「…はい!」

俺も小声で言う。

こんな幸せな時間が、これから先もずっと続いていくと思っていた。



「……留学!?」

ある日の放課後、俺は先輩に告げられた。

「四年、オーストリアのウィーンに留学しないかって…。ピアニストになる夢に近づけると思ってるの……」

先輩は俯きながら言った。

ピアニストの夢に近づけると言っているが、その声は明るいとは言えない。

「……先輩?」

先輩は不意に俺に抱きついてきた。ぎゅっと強く、強く。

先輩から抱きしめられたり、キスをされたことはない。俺は嬉しく思いながらも、不安な気持ちが芽生えた。

「来月から、ウィーンに行くの……」

先輩の声は震えている。俺はその頭に手を置いた。寂しさが胸に込み上げてくる。

「……私たち、大丈夫よね?ずっと一緒よね?」

顔を上げた先輩の目には、涙が浮かんでいた。

「…はい」

俺は頷くしかできなかった。