彼の溺愛はわかりづらい。



流れてくる音楽を聞きながらいると、私の視界にヤツが入ってくる。

…何の用だ。どっちにしろ、何も聞きたくないんだけど。

…めんどくさいな。

そう思い、私はソイツを視界から消し去るべく、目を閉じた。



「……い、おい、無視してんじゃねぇよ…!」



イヤホン越しに聞こえてくる、叫び声にも似た悲痛そうな声。

…修羅場なのかな。誰かが。



「聞いてんのか、渋川琴…!」



は?え?私?


慌ててイヤホンを外すと、



「…なんだ、空耳か…」



私の周りには、だーれもいなくて。



「…寝よ」



そのまま、机に突っ伏そうとしたその時。



「さっきから呼んでんだけど、渋川琴」



隣から声が聞こえてくる。
しかも、ムカつくアイツがいる右隣から。



「…なに」



これ以上喋られるのもうるさいから、私は不機嫌MAXの状態ながらも、ヤツの方を向いた。

…私が音楽ノリノリで聴いてたのと、私の安眠を妨害した犯人はコイツか。ふざけんな。