レオを励ます言葉も思い浮かばないし、それどころか私だって不安で仕方ない。
地面を見つめることしかできない私たちの中で先陣を切って声を上げたのはソウジだった。


「気にしすぎなんだよお前ら。いい加減この重苦しい雰囲気やめろよ」

顔を上げると、ヘッドフォンをずらして私たちを冷めた目で見ていた。
ソウジの意見も全くの見当違いというわけではないけど、この男はいっつも何事にも他人事すぎる。
今回の件だって、その場にいたんだから全員に反省したり考えるところがあるべきなのにソウジはまるで自分は蚊帳の外とでも言うように気にするそぶりをちらりとも見せない。


「あんたは気にしなさすぎなのよ」


つい我慢できず、睨みながらそう言うと、ソウジは本格的にヘッドフォンを取って凄んできた。


「あ?レオの言ったことは別に間違ってないだろ。お前らがそんなに思い悩んでる意味がわかんねえよ」


「言い方が悪いって言ってるの!あんたはもうちょっと人の気持ちを推し量る努力をしなよ」


「はあ?推し量る努力してこんなことになってんだったらザマァねえな」


「ちょいちょいちょいお前らまで喧嘩してどうすんだよ」


徐々に口論がヒートアップし、そろそろ掴みかかってしまいそうな私とソウジの雰囲気を見かねてタカちゃんが間に入ってきた。


「止めないでよタカちゃん!こいつには一度ガツンと言ってやりたかったのアイへの態度とか」


「あーーいいからメル落ち着け」


タカちゃんのでかい図体を押し除けてでもソウジに何か一言言ってやりたかったが、女子の中でも小柄な方な私にはそれはやはり厳しかった。

タカちゃんに肩をポンポンと叩かれながら、ソウジの近くから引き剥がされた。
まるで暴れ馬を調教するように背中をさすられていると、否が応でも昂っていた気持ちが落ち着いてくる。

結局私はいつもタカちゃんに手綱を引かれているようだ。


「ソウジは口が悪い。レオもいい加減そんな顔やめろ。メルも間違ってないけど今は怒る時じゃないだろ。
大丈夫だって。昨日あの後翔太に連絡したらアイ全く怒ってなかったし、頑張るって言ってたらしいぞ。
だから安心し」


「本当?!タカちゃん」

「それ本当か?」


タカちゃんの言葉を遮って私とレオの声が揃った。

私たちの勢いにタカちゃんは苦笑いをしながら頷いた。


よかったーー
心からほっとする。
さっきまでのソウジへの怒りもどこへ行ったのやらで心の中がさーっと晴れ渡った。

隣のレオも涙を堪えるように顔いっぱいにシワを作って喜んでいるのがわかりやすい。


ちょうどその時ホームに電車が入ってきた。
人混みに飲まれそうになるところをいつも通りタカちゃんが守ってくれて電車に乗り込む。


「アイ頑張るって言ってくれて嬉しいね!」

満員電車の中、そばに立っているタカちゃんに小声でそう声をかけると、タカちゃんも満面の笑みで頷いてくれた。

早く電車がつけばいいのに。

今すごくアイに会いたい。
アイの歌が聴きたい。