歌い終わると、しばらくの静寂ののちにどっと観衆が湧き、拍手が学校中から巻き起こった。


見上げると3階にも拍手をしている生徒がいる。
いったいどんな声量をしているのか。


生徒に囲まれて肩で息をしているあいつがふと視線をこちらに向けて息を呑むように目を大きく見開いた。


先に口を開いたのは戸田の方だった。


「私ボーカルやりたいです!」


張りのある凛とした声は俺ら全員まで届いたが、その瞳に映しているのはレオだった。
「うん」と頷き、レオが手を大袈裟に前に差し出してみせると、戸田はそれまでの自信に溢れたような表情を崩し、泣きそうな安心したような顔で力強く頷いた。


レオが戸田の方へ近づいていき、その手を取った。


「どうも皆さん、もっとたくさん彼女の歌が聴きたい人はぜひ文化祭で俺らのバンドでステージやるんで聴きにきてください」


レオのいきなりの宣言に周りは皆一瞬きょとんとしていたが、奴の人望により途端に場は盛り上がっていた。


「え、俺ら文化祭でステージできんの?」


タカが隣のメルに耳打ちしていたが、メルも状況をうまく飲み込めていない。


「知らない。またレオが勝手に動いたんでしょ」


ぶっきらぼうに返しながら、ペコペコと観衆に頭を下げる戸田をじっと見つめている。


「しかしうまいなあの子、びっくりした、、なソウジってえ、うわっ、お前顔やべえよ?怒ってんのか?」


「別に」


感動しすぎたからなんて恥ずかしくて言えなかった。


一刻も早く俺のベースに乗せてあいつに歌って欲しい。


俺の作った曲を歌って欲しい。


そんな正直な気持ちは俺には言えないのだ。