頬を膨らませてこちらを睨みつけるメルから注意を逸らし、電車の外に目を向けた。


その間もレオはタカにもたれかかったままぐっすりと眠っていた。


電車はいつも通り何事もなく高校の最寄駅に着き、同じ制服の生徒たちの波に紛れる。


俺たちが通う高校は中心街から外れた公立高校だ。


生徒数はやけに多いが、それ以外には特に目立ったところもない。


数ある高校の中から地元から少し離れたここを選んだのは、昔の音楽科の名残で設備の整った教室がいくつも空いていることを知ったから。


毎日毎日、狭苦しい電車に揺られて通うのは正直だるいけどバンドのためなら仕方ない。



駅から出たあたりで、やっとレオが目覚め、自力で歩き始める。


それでも大きな声を出しながら呑気に大欠伸をする姿に呆れ返っていると


「おはよう!」


キンキンと甲高い声たちに四方八方から出迎えられる。満員電車よりよっぽど耐え難いのはこれだ。


学校の女たちは別に知り合いでもないくせに、絶妙な距離を保って声を掛けてくる。


本当に毎日毎日鬱陶しい。


自分の顔が平均より整っていることは小学生の頃には自覚した。


イベントにかこつけては名前も知らない女たちに呼び出され一方的に想いを告げられ、正直に断ればまるで極悪人のように集団で睨みつけられる。


生活を至って普通に送ってるつもりでもやれイケメンだなんだと騒ぎ立てられ、落ち着く暇もない。


同じような扱いを受けているレオとタカはいつも女たちに爽やかに挨拶を返しているけど、俺はとてもじゃないけどそんな気にはなれない。


顔なんて普通でいいから、静かな学校生活を送りたい、今の所切なる願いはそれだけだ。