少しずつ忍び寄る女の子を心の中で応援する。




頑張れ、頑張れ。




「戸田ァ！！」




そんな時、急に自分の名前を呼ばれて肩をビクッと震わせる。




ゆっくり視線を前に向けると、黒板の前にいた先生が丸メガネの奥の目を細めて私を睨みつけていた。




午後の最後の数学の授業の中盤。




大半が熱心にノートに向かい、少数が机の下で隠れてスマホをいじっている。




「お前、授業中ぼーっとできるような点数取れんのか？ああ？」




勉強が不得意な私の最も苦手とする教科が数学。




いつも定期テストでは赤点を回避するだけで精一杯だ。




「すみませんでした」




クラス中の視線を浴びていることに気づいて、途端に全身から汗が吹き出す。


鼓動が早くなり、緊張で声を上擦らせながら謝罪をする。




「ったく、戸田兄妹はうちの学校の誇りだったのに、末っ子のお前だけは何１つできない出来損ないで残念だよ」



嘲笑うような先生の表情と不躾な言葉に、何も言い返せず机で隠れた拳をぎゅっと握りしめる。