キミと歌う恋の歌

「いや、だから、タカはメルにだけ甘すぎないかって…」


自分とのあまりの熱量の差で冷静にならざるを得なかったのか、それまで沸騰する直前のお湯のように感情を露わにしていたレオは打って変わった静かな声でボソボソとソウジに対してそう提言した。


しかし、ソウジは一瞥だけするとまた雑誌に視線を戻し、「どうでもいい」と尖った声で言った。


それまで大喧嘩を繰り広げていた私とレオだが、味方をつけようとしてあっさりと冷たく振られたレオがひどく気の毒で、もうそれ以上煽るのはやめておいた。


「ったく、レオとメルはほっときゃ喧嘩ばっかだし、ソウジはいつになっても一匹狼だし、本当お前らは世話が焼けるな」


しばらく様子を静観していたタカちゃんがわざとらしく大きなため息をついて私とレオの頭にポンっと手を軽くおいてそう言った。


撫でるようにその手は私たちの頭を通り過ぎて、タカちゃんはソウジの前に移動して、顔の前に広げられていた雑誌を片手で持ち上げた。


「練習するぞ、ソウジ」


「…一番遅かった奴が何を偉そうに」


「はいはい、ごめんな」


ジロリとタカちゃんを睨み、憎まれ口を叩くソウジを気にすることもなく、タカちゃんはドラムの元へ歩いていく。


レオもソウジも側にあったギターやベースを手に取り、準備を始めた。


今日は二週間に一度のスタジオ練習の日だ。




タカちゃんと出会ってから四年が過ぎ、私はこの春中学2年生になった。


あの日私のピアノをひととおり上手いと褒めちぎった後、タカちゃんはそのまま、嫌がる私を無理やり引っ張ってレオの元へ連れて行った。


そして、見知らぬ顔の出現で今にも獲物に飛びかかりそうな野生動物のような様子のレオに対して、「ピアノ上手い子見つけたぞ!」と言った。


それから必死の抵抗も虚しく、私はレオが結成したばかりのバンドメンバーにキーボード要員として加入させられた。


あの時は小学生ながら、人生の終わりだと本気で思った。


だけど、今となっては彼らに出会っていなかった場合の今が想像できない。
彼らは私の生活の一部となってしまった。