キミと歌う恋の歌

______4年後


「何度言ったらわかるの?!学校では他人のふりしてよ!!」


「うるっさいなー。教科書借りるくらいいいだろ」


「よくない!ほんっとにレオはなんで約束一つ守れないわけ?!馬鹿なの?!」


「一番の遅刻魔が何言ってんだよ」


「そういうこと話してるんじゃないの。私の中学生活を穏やかにするために必要なことなの。お願いだから守ってよ!」



「はいはいはい、ストップストップ。どうしたんだよ外まで聞こえてたぞ」


レオと私が肩を上下に動かしながら言い合っているところに、扉を開けたタカちゃんが呆れた表情でそう言った。


慌てて私は、限界まで釣り上げていた自らの眉毛や目を元の位置に直し、大きく開いていた口を閉じる。


「だって、タカちゃん。レオが約束破ったの」


さっきまでの怒声と打って変わる、甘く濡らすような声瞬時に出すことのできる自分に、我ながら恐れ入る。
そんな私の様子を近くで見ているレオは、吐き気でも訴えるような表情を見せた。


「約束って何の?」


「学校では話しかけないで、他人のふりしてって言ってるのに、こいつ、あ、いやレオが今日教科書貸してってわざわざ教室まで来て言ったの」


「別に良くね?なんで他人のふりする必要があるのかわかんねーわ」


「だから、何度も説明してるじゃん。あんたらと仲良いことがバレたら余計な嫉妬とかされちゃうの」


「気にすんなよ」


「女子はそういうの一つでハブられたりすんの!レオは何も分かってない!」


「そんなしょうもないことでハブったりするやつと関わる必要ないだろ」


「〜私がどれだけっ」



「はいはいストップストップ。約束を破った時点でレオが悪いよ。メルがこうしてくれってちゃんと頼んでるんだから、それは守ってあげるべきだろ」


また言い争いが勃発しそうなところを、見かねたタカちゃんが口を挟み、レオに向かって宥めるようにそう言った。

私は、にやりと口角をあげ、タカちゃんのそばに駆け寄り、その太く逞しい腕を両手で握って、レオに対して舌を突き出した。


「ほーら、タカちゃんもこう言ってんだから、謝れレオ!」


「はあ?タカはメルに甘すぎんだよ!なあソウジ、どう思う?」


レオは信じられないとでもいうように目と口を大きく開き、大袈裟に肩をすくめながら、後ろを振り向いた。


その視線の先にいる男は、顔を上げようともせず、ソファーにもたれかかって音楽雑誌に夢中だ。


「おい、ソウジ!」


痺れを切らしたレオがボリュームを上げてもう一度呼びかけると、ひどく面倒くさそうにソウジは視線だけこちらに向けた。


「…なに?」