目を輝かせて、私を褒める藤村鷹斗の姿に戸惑いながら、椅子の上で縮こまっていると、彼はまるで体が風船でできているかのように軽々と窓枠を片手一つで飛び越え、音楽室の中に入ってきた。
「な、なにを」
「もっかい弾いてくれよ!近くで見たい!」
全く予想できない行動に唖然として、そのよく焼けた顔を見つめる。
そうすると、ニコッと笑い返されて、慌てて目を伏せて、雑な物言いで返事をした。
「そ、そんな義理ないし」
「えー勿体ぶんなよー。聞かせてくれよー」
口を尖らせて、文句を言う彼の姿を見ていると、もうずっと学校の中では張り詰めていた心にほんの少しの暖かさを感じた。
彼は私の見た目のことなど何一つ気にも溜めていない。
なぜだか、私はそれがはっきりとわかった。
ただただ私のピアノが聴きたいとそれ以外の感情などどこにも存在していない。
彼の体は透き通って見えた。
私がそんなことを考えて、何も喋らない間も彼は1人でぶんぶんと腕を振り回して駄々を捏ねていた。
とても年上とは思えない。
「ふっ」
溢れ落ちるような自らの吐息に自らはっと驚いた。
黒光りする目の前のピアノに反射して映る私の口角は上がっている。
いつぶりだろうか、学校で笑顔を浮かべるのは。
目頭が熱くなるのを誤魔化すように、彼の姿から視線を逸らし、ピアノを正面に捉え、手を鍵盤の上に下ろした。
「私の演奏料は高いんだからね」
そう言って、これまでで一番と胸を張って言えるくらい丁寧に鍵盤を指で押した。
不思議なものだ。
誰も聞いてなどいなかったさっきまでは流れるようにすらすると弾けていたのに、上手だと思ってもらいたいと思って弾くと、ありえないところでミスをしてしまう。
こんなんじゃないのに、心の中で言い訳をしながら、弾き続け、終わると悔しくて唇を噛んだ。
だけど、彼はそんな私の姿を嘲笑うような満面の笑みで言った。
「超上手いじゃん!まじすげえ!」
何がすごいのか全くもって伝わらない少年らしさ全開の純粋なセリフ。
そして、嘘偽りないと信じられる太陽のような笑顔。
私はあの日、いとも簡単に生まれて初めての恋心を知った。
「な、なにを」
「もっかい弾いてくれよ!近くで見たい!」
全く予想できない行動に唖然として、そのよく焼けた顔を見つめる。
そうすると、ニコッと笑い返されて、慌てて目を伏せて、雑な物言いで返事をした。
「そ、そんな義理ないし」
「えー勿体ぶんなよー。聞かせてくれよー」
口を尖らせて、文句を言う彼の姿を見ていると、もうずっと学校の中では張り詰めていた心にほんの少しの暖かさを感じた。
彼は私の見た目のことなど何一つ気にも溜めていない。
なぜだか、私はそれがはっきりとわかった。
ただただ私のピアノが聴きたいとそれ以外の感情などどこにも存在していない。
彼の体は透き通って見えた。
私がそんなことを考えて、何も喋らない間も彼は1人でぶんぶんと腕を振り回して駄々を捏ねていた。
とても年上とは思えない。
「ふっ」
溢れ落ちるような自らの吐息に自らはっと驚いた。
黒光りする目の前のピアノに反射して映る私の口角は上がっている。
いつぶりだろうか、学校で笑顔を浮かべるのは。
目頭が熱くなるのを誤魔化すように、彼の姿から視線を逸らし、ピアノを正面に捉え、手を鍵盤の上に下ろした。
「私の演奏料は高いんだからね」
そう言って、これまでで一番と胸を張って言えるくらい丁寧に鍵盤を指で押した。
不思議なものだ。
誰も聞いてなどいなかったさっきまでは流れるようにすらすると弾けていたのに、上手だと思ってもらいたいと思って弾くと、ありえないところでミスをしてしまう。
こんなんじゃないのに、心の中で言い訳をしながら、弾き続け、終わると悔しくて唇を噛んだ。
だけど、彼はそんな私の姿を嘲笑うような満面の笑みで言った。
「超上手いじゃん!まじすげえ!」
何がすごいのか全くもって伝わらない少年らしさ全開の純粋なセリフ。
そして、嘘偽りないと信じられる太陽のような笑顔。
私はあの日、いとも簡単に生まれて初めての恋心を知った。


