「むむむむむ無理だよ!」


「なんで」


「なんでって、そ、そんなの、どう聞いたらいいかわからないし。話しかけ方が」


「たまに喋ってるだろ」


「それは結城さんが話しかけてくれるからで」


「じゃあそれと同じように話しかけりゃいいだろ」


「でも」


「じゃあもうやめとけよバイトは。アルバイトなんかどんな種類でも他人と関わらなきゃいけないのに、クラスの人間ともろくに喋れない奴ができるかよ」


心底うんざりした顔でソウジが吐き捨てるように言った。


それはソウジもじゃないかと、一瞬思ったが、ソウジは別に喋ろうとしていないだけで、その気になったら当たり障りない会話なんて普通にできるだろう。

ソウジの言っていることは至極真っ当だ。


結城さんたちのグループの方に目をやった。
あれから何かと話しかけてくれるし、挨拶だけは自然にできるようになった、と思っている。
だけど、未だ自分から話しかけたことはない。

文化祭の時、みんなは私に優しい言葉をかけてくれて、友達だと言ってくれたけど。
なかなか勇気が出ない。

話しかけるための話題がないし、結城さんのように明るく話して楽しませられる自信がないし、彼女は人気者でみんなによく囲まれているから私が話しかけても邪魔かなと考えてしまう。

全部被害妄想と言い訳でしかないのはわかっているのだけど。

というか、なんでソウジはこんなに結城さんたちの方へ話しかけに行かせようとするんだろう。


疑問に感じたところで、ハッと一つの考えが頭に浮かぶ。


「も、もしかして私と喋るの嫌?」


私があんまり無遠慮に後ろを向いて勉強について質問を繰り返したもんだから、とうとう嫌になったのかもしれない。
私を他のところに行かせて、厄介払いをしようとしているのだろうか。


それを聞いたソウジはわざとらしくため息をつき、「何でそうなるんだよ」と私を睨みつけた。


そして、頬杖をつきながらソウジは結城さんたちの方を見た。


「お前は仲良くしたいんじゃねーの、あいつらと」


そう言って、ソウジは私の方は視線を向け直した。


まっすぐに見るその黒い瞳は私の本心を見抜いている。


「う、うん」


小さく頷く。


「じゃあ話しかけるにはいい話題なんじゃねーの」


ソウジは誰にも興味がなさそうなのに、実は周りが一番見えている。

私のことを考えてくれて、背中を押してくれているのだと自覚すると胸がじんわりと熱くなり、思わず笑みが溢れた。


「何笑ってんだよ、さっさと行けよ」


ソウジが不満げに言った。


「うん、頑張ってみる。
でもまだ勇気が出ないから、放課後までに何度かシュミレーションをやって完璧にしてから決行する」


「…そうかよ」


「うん!とりあえずここの問題教えてもらってもいい?」


「…お前ちょっとメルの図々しさが移ってきたな」


「え」