加悦が怒ったような目で十全を睨む。
「おい悪魔、未成年の露子ちゃんに手でも出してみろ、俺様が容赦しないからな。」
加悦は腕を汲んで胸を張る。
「そうだ、そうだ、露子ちゃんは霜月商店街のアイドルなのだぞ!」
「神性な巫女なのだ、儂の目の黒いうちには嫁には出さん。」
「本当だ、なんと羨ましい男だ。露子ちゃん、うちで働くのなら倍を払うぞ。」
「くそう、闇討ちにしてやりたい。」
円卓のあちこちから次々に野次が飛ぶ。
焦った十全は露子を横目で見るが、素知らぬ顔。
慣れています、と言わんばかりの横顔は平静で、美しく整っている。
ため息ひとつ、十全は答える。
「僕は彼女を大事にしてます。もっと僕を信頼して欲しい。」
十全は冷酒を一気に煽ると露子の目を見つめて言う。
「君は、どうして僕を信じてくれないんだろう。こんなに大事にしているのに。」
露子は素知らぬ顔でオレンジジュースを飲んでいる。
「そりゃあ、悪魔を信用するのは難しいよな、露子ちゃん、うっかり魂抜かれないように気をつけろよ?悪魔っていうのは人間を騙して魂を奪う商売だろう。」
加悦は露子に言う。
すると、
「私、十全さんのこと、好きですよ?」
露子は、何でも無いみたいにさらりと言った。
「かっこいいし、いつも私を気にかけてくれて。きっと私、恋してる。」
加悦は、ビールを吹き出した。
円卓の妖怪たちはみな唖然騒然、顔を赤くするものやら青くする者やら様々だ。
一番狼狽しているのは加悦だ。
加悦は、青い顔をして、とうとう涙を流し始めた。
「露子ちゃんが悪魔の毒牙にかかってしまったあ。」
加悦は泣き叫ぶ。
周囲の妖怪達も露子の信望者である。
涙こそ流さないが、明らかに肩を落としてしまった。
犬神の佐藤は露子ちゃんに小鬼によって運ばれてきた小籠包を取り分けて上げながら諭す。
「まあ、露子ちゃんも若いし、ちょっと男前に優しくされれば、心が揺れることもあると思うが、よく考えておくれ。どうだろう、加悦の方がましじゃないか?どうせ妖怪と付き合うなら加悦を押すね、儂は。」
加悦はぱっと顔を上げる。
「でも、加悦さん、貧乏だし。」
露子は先週十全が渡した黒真珠のイヤリングを耳を軽く引いて見せながら悪びれも無く言う。
まさに天然の悪女である。
佐藤は苦笑いである。
加悦は鬼のくせに本気で泣いているようだ。
円卓のメンバーは皆一様に思った。
どうしてこうなった!
「十全さん。毒牙にかかったのは君の方のようだよ。」
張は笑いながら手酌でビールを接ぎ、一気に煽った。
「我が商工会は露子ちゃんを信望する会と言い換えても良いぐらいだ。十全さん、君はきっと、これからも苦労することだろうね。」
張は細い目をほんの少し開き、十全に言った。
小鬼を使役し、妖怪共を相手にする人間である。
十全は張の底知れなさに少し身震いをする。
「どうぞ皆様ごひいきにしてください。」
十全が日本式に綺麗にお辞儀をしてみせると、やんやと拍手がわき上がる。
小鬼達がどんどん酒を持ってくるので、場は盛り上がり、商工会の忘年会は夜更けまで続いた。
喧噪の中。
ふと、十全は月が出ていることに気がついた。
座敷の丸窓から見えた美しい満月。
秋の月は美しく輝き、紅葉の橙を照らす。
涼しい風がすっと吹き抜ける。
金木犀の甘い香りが微かに流れてくる。
十全は日本の四季と酒の味に満足して、ゆっくり息を吐く。
悪くない。
この空気は悪くない。
十全はこの街が好きだ。
ここに住む妖怪達や人間が好きだ。
そして、こんな風に日本妖怪に受け入れて貰えたのは露子の力だろうと思う。
窓辺では緑と赤の小鬼の夫婦が身を寄せ合って座っているのが見えた。
ああ、良い光景だな。
十全はそんな風に考えた自分に少し驚く。
彼もまた、変わったのだ。
「おい悪魔、未成年の露子ちゃんに手でも出してみろ、俺様が容赦しないからな。」
加悦は腕を汲んで胸を張る。
「そうだ、そうだ、露子ちゃんは霜月商店街のアイドルなのだぞ!」
「神性な巫女なのだ、儂の目の黒いうちには嫁には出さん。」
「本当だ、なんと羨ましい男だ。露子ちゃん、うちで働くのなら倍を払うぞ。」
「くそう、闇討ちにしてやりたい。」
円卓のあちこちから次々に野次が飛ぶ。
焦った十全は露子を横目で見るが、素知らぬ顔。
慣れています、と言わんばかりの横顔は平静で、美しく整っている。
ため息ひとつ、十全は答える。
「僕は彼女を大事にしてます。もっと僕を信頼して欲しい。」
十全は冷酒を一気に煽ると露子の目を見つめて言う。
「君は、どうして僕を信じてくれないんだろう。こんなに大事にしているのに。」
露子は素知らぬ顔でオレンジジュースを飲んでいる。
「そりゃあ、悪魔を信用するのは難しいよな、露子ちゃん、うっかり魂抜かれないように気をつけろよ?悪魔っていうのは人間を騙して魂を奪う商売だろう。」
加悦は露子に言う。
すると、
「私、十全さんのこと、好きですよ?」
露子は、何でも無いみたいにさらりと言った。
「かっこいいし、いつも私を気にかけてくれて。きっと私、恋してる。」
加悦は、ビールを吹き出した。
円卓の妖怪たちはみな唖然騒然、顔を赤くするものやら青くする者やら様々だ。
一番狼狽しているのは加悦だ。
加悦は、青い顔をして、とうとう涙を流し始めた。
「露子ちゃんが悪魔の毒牙にかかってしまったあ。」
加悦は泣き叫ぶ。
周囲の妖怪達も露子の信望者である。
涙こそ流さないが、明らかに肩を落としてしまった。
犬神の佐藤は露子ちゃんに小鬼によって運ばれてきた小籠包を取り分けて上げながら諭す。
「まあ、露子ちゃんも若いし、ちょっと男前に優しくされれば、心が揺れることもあると思うが、よく考えておくれ。どうだろう、加悦の方がましじゃないか?どうせ妖怪と付き合うなら加悦を押すね、儂は。」
加悦はぱっと顔を上げる。
「でも、加悦さん、貧乏だし。」
露子は先週十全が渡した黒真珠のイヤリングを耳を軽く引いて見せながら悪びれも無く言う。
まさに天然の悪女である。
佐藤は苦笑いである。
加悦は鬼のくせに本気で泣いているようだ。
円卓のメンバーは皆一様に思った。
どうしてこうなった!
「十全さん。毒牙にかかったのは君の方のようだよ。」
張は笑いながら手酌でビールを接ぎ、一気に煽った。
「我が商工会は露子ちゃんを信望する会と言い換えても良いぐらいだ。十全さん、君はきっと、これからも苦労することだろうね。」
張は細い目をほんの少し開き、十全に言った。
小鬼を使役し、妖怪共を相手にする人間である。
十全は張の底知れなさに少し身震いをする。
「どうぞ皆様ごひいきにしてください。」
十全が日本式に綺麗にお辞儀をしてみせると、やんやと拍手がわき上がる。
小鬼達がどんどん酒を持ってくるので、場は盛り上がり、商工会の忘年会は夜更けまで続いた。
喧噪の中。
ふと、十全は月が出ていることに気がついた。
座敷の丸窓から見えた美しい満月。
秋の月は美しく輝き、紅葉の橙を照らす。
涼しい風がすっと吹き抜ける。
金木犀の甘い香りが微かに流れてくる。
十全は日本の四季と酒の味に満足して、ゆっくり息を吐く。
悪くない。
この空気は悪くない。
十全はこの街が好きだ。
ここに住む妖怪達や人間が好きだ。
そして、こんな風に日本妖怪に受け入れて貰えたのは露子の力だろうと思う。
窓辺では緑と赤の小鬼の夫婦が身を寄せ合って座っているのが見えた。
ああ、良い光景だな。
十全はそんな風に考えた自分に少し驚く。
彼もまた、変わったのだ。
