ギラギラと光る包丁。
いつもと違うあいつの雰囲気。
「…………なぁ。」
怒っているのだろうか、声がいつもより低い。
「………は…はい」
声が震える。
怖い
「………なに企んでる?」
「………な、なにも……」
「うそつけ」
すぐにばれる。
怖い、包丁が近づく。
……………お母さん
「………俺はお前をいつでも殺せる。それを忘れんな…」
『ガチャガチャン』
出ていった。
体の震えが止まらない。
怖い
けど………お母さんに会えない方がもっと嫌だ。
お母さんの肌に触れたい。
お母さんの匂いを嗅ぎたい。
お母さんにお母さんに………………
名前を呼んでほしい。
もう、ずっと私の名前を呼ばれてない。
大丈夫、私ならできる。
大丈夫。
私はベッドに戻りぎゅっとリリちゃんを抱き締めた。
こうすると安心するのだ。
「………1週間後にしよう、実行するのは。
これで明日に待ち伏せしていても警戒されていたらうまくいけない。
絶対に失敗できないんだもん。慎重にやらなくちゃ。」
そうだ。殺されたもう、お母さんに会えなくなる。
「……お母さん……………」
『なにやってるの花菜!?』
『あ、えっと……ごめんなさい』
『ごめんなさいじゃなくて!!何やっているのかを聞いてるの!!どうしたの!?その手………血だらけじゃない!』
『………うっ…うぁ………ごべんなざ……ふっ………うぅ』
『………ねぇ、お母さん怒らないから……どうしたの?何があったの?家中血がいっぱいついてるの。花菜は何をしたの?教えて。』
『……………………………』
『花菜。教えて。』
『……犬を…公園で見つけたの。うっ………ふっ…そ…それでね……可愛くてね……いっ…一緒に遊んでたらねぇ………うぅ…』
『うん。それで?』
『…ボールで遊んでてね………ワンちゃんがね…………』
『うん。』
『…ボールを………取りに行こうとしてねそしてね……そしてねそしてね………………ひかれちゃったの…車に………』
『……そう』
『…私がボール投げちゃって…………ワンちゃんがぁっ……』
『…そっか……でもなんで家にいっぱい血がついてるの?』
『……ワンちゃんね、まだ生きてたの……だ、だから手当てしなきゃと思ってね……家ねつれてきたの……………そしたら』
『そしたら?』
『…ワンちゃん………痛かったのかなぁ………暴れてね…走り回って………それで……』
『……今ワンちゃんはどこにいるの?』
『……死んじゃったの……動かなくなっちゃって………だから……公園に埋めてきたの………何回も謝ってお礼を言ったの……』
『…うん。』
『何回も「ごめんね、遊んでくれてありがとう」って何回も………っぅごべんねぇ…ワンちゃん………ごめ…んねぇ………うわぁぁぁぁんっ!!』
『そっか…ちゃんと謝ったんだね、偉いよ花菜。お礼も言えたんだね。…お母さんもワンちゃんにお礼言わないとだね。花菜を守ってくれたんだから』
『わあぁぁぁぁぁぁぁんっ!!……』
「…おはよう」
「…おはようございます…」
「…ここにご飯置いておくからね…」
「はい…」
『ガチャガチャン』
またお母さんの夢を見た。
あれは、私が公園で犬を見つけた日。
ボールで遊んでいたら遠くに行っちゃって犬が取りに行こうとしたら道路で車にひかれてしまった。
お母さんはずっと泣いている私を慰めてくれていた。
私はずっと泣いていて気がつくと朝だった。
それから少し私は犬が苦手になった。
可愛いけれどあの日の事を思い出してしまう。
「………あ」
そういえば、あいつ。今日は普通だった。
いつものような感情の灯らない声。
何を考えているか分からない。
昨日は別人のようだった。
「……なにしようかな…」
ー1週間後ー
「……よし、今日逃げよう」
私は今日、脱出する。
準備もで来てる。
あとはあいつが来るときにアキレス腱を切って逃げるだけ。
私は目覚まし時計を見る。
時計は朝の7:30を表示している。
もうすぐ…………もうすぐ……
花瓶の破片を持つ手に汗がにじむ。
すごいドキドキしている。
「…ハァハァ」
緊張で体が震える。
落ちつかないと………私はそばに置いてあったリリちゃんを抱き締めた。
「…大丈夫大丈夫。私ならできる………お母さんに会える!」
そう言ったときだった。
『コツ…コツ…コツ…コツ…』
「!!!」
来た!!
私は息を止める。
ドアが開くのをじっと待つ。
ここはドアが開いたら影少し見えづらくなる。
よし。大丈夫。
「…おはよ…」
ドアが開いた。
私は素早く振り上げていた手をおろした。
「っぐぁぁっ!!」
花瓶の破片はあいつのちょうどかかとの上に刺さった。
「あぁっ!!このっ…!!」
ヤバイ!
「きゃっ!」
思いっきり突き飛ばされる。
床に倒れる。けれどあいつも床に這いつくばっている。
あいつは私の持っている花瓶の破片を取ろうと、上に乗ってきた。
「イヤッ!!止めて!」
「それを話せ!早く………」
もがいているうちに私の手から花瓶の破片が離れた。
けれど別に取られたわけではない。
「……え?…」
私は目を見張る。
何が起きたかわからない。
「………ゴフッ」
あいつは口から血をはいて床に倒れた。
「あ……あぁっ…」
悲鳴に近い声が出た。
怖かった。
回りが血の海になる。
あいつのお腹に私の花瓶の破片が刺さったのだ。
「…ゴホッ…ハァハァ」
また血を吐いた。
「い…行かなきゃ………逃げなきゃ」
私は震える体で走った。