「…おはよう」


「おはようございます…」


「ここにご飯置いておくからね…」


「…あ、あの!!」


「…なに?」


「……欲しいものがあります」


「……何がほしいの?」


「…め、目覚まし時計とお花が…」

「……花?」

あいつは首をかしげた。

「はい。私はその……花が好きで…………それで」

「…………ふーん。そう。わかった、明日持ってくるよ」



「………ありがとうございます…」


『ガチャン』



これでいい。


緊張で固まってた体か一気に解放された。


「………よし。」



時計は壁掛け時計ならある。


けれどそれではダメ。


脱出するには置き時計が必要だ。


あいつが来るときが分からないとダメだから。


私は1つの作戦をたてた。


まず、明日花と時計を持ってきてもらう。

本当は花は別に必要ない。

ほしいのは花瓶。明日花と一緒にもらえたらいいけど、もらえなかったらまた頼むつもりだ。

そしてその花瓶を割る。


その破片を持ってあいつをドアの横で待ち伏せする。


そしてあいつが来たらあいつのアキレス腱を切る。


そうすればあいつが追いかけられずに脱出できる。


時計が必要なのは正確な時間をみたいから。

あいつは朝8時に来る。

目覚まし時計なら近くで見れる。

掛け時計はちょうどドアの所からは見えない。




「……リリちゃん。頑張るよ私。」


私はぎゅっとリリちゃんを抱き締めた。




私がこの前見たマンガ。


そこに、アキレス腱を切られて動けない女の人がいた。


それでこの作戦を考えた。




…………やっと


…………………やっとお母さんに






『…お母さん!!』


『……………………………』


『お母さん!?どうしたの!?なんで玄関で寝てるの?起きて!!起きて!!』



『……………は……な…』


『お母さん!死なないで!!お願い!!おかぁさぁんっ!』


『…大丈夫よ…………大丈夫だから』

『お母さん……』


『ごめんね、心配かけて。………じゃあこれから私、仕事だから。行ってきます』


『…………………いってらっしゃい…』






「…おはよう」


「おはようございます…」



「…はい、これ。昨日言われた花と時計。花は飾るんでしょ?花瓶も用意したからこれにいれてね。ここにご飯置いておくからね…」


「…はい。ありがとうございます…」



「………」


『ガチャガチャン』



よし。


花瓶も今日用意してくれた。



時計もこれでよし。




あとは割って明日あいつを待ち伏せするだけだ。




私は花瓶を持って台所に行った。


そして布で包んで思いっきり、


『ガシャンッ!』

「………割れたかな?」


恐る恐る見てみる。


「……いてっ!」


指先が切れた。


布のなかを見ると、かなりバラバラになっていた。


「いたた。気を付けなくちゃ、えっと……………大きいやつにした方が……」


私はそのなかで1番大きいやつを選んで持つところに布を巻いた。


「…………これでやっとお母さんに………」



今日もまたお母さんの夢を見た。


私が学校に行こうとしたら玄関でお母さんが倒れていたのだ。


お母さんの顔色は悪く、フラフラで仕事に向かっていた。


私はその日から家の家事を全部やることにした。

選択や掃除などはしていたが、料理などはお母さんがやってくれていた。

それを頑張って作った。もちろんお母さんみたいにうまくは出来なかった。料理本を買うお金もないので、学校の図書室で借りたり、おにぎりだけのときもあった。





……………お母さん。



いっぱいお話したい。



美味しいご飯もマンガもいらない。お母さんがいてくれればそれでいい。







「………おはよう」


「!!お、おはようございます…」


「…ここにご飯置いておくからね…」


「は、はい…」



『ガチャガチャン』



私の部屋が再び静かになる。


「………朝になっちゃった…」


私は時計をみる。


「…1…2……3、4、5………………13……15時間も寝ていたの?私?」



私はもう一度時計を見て数える。


「……なんでこんなに寝て…」



昨日は花瓶を割って冷蔵庫に隠してそのあとベッドに座っていた。


そのあとの記憶が全くない。


「……目覚まし時計をセットしとこう。最低でもあいつが来る3時間前には起きていなきゃ」








「…………あれ?」


私の手が止まる。


「……………鍵閉める音…………増えてる?……………あれ?」


私は昨日の音も思い出した。


「………なんで昨日から………もしかして……」




体から変な汗が出てくる。




「………脱出の……気づかれた?」



『ガチャガチャン!』


鍵を開ける音がした。


私はドアの方を見る。



「………なんで……」


なんであいつがまた来たの?


声に出せなかった。



あいつはまた手にギラギラと光る、包丁を持ってきた。