ここから出よう。

そう決めた。




もうこんな所には居たくない。


早くお母さんに会いたい。



「……おはよう」


「……お早うございます。」



「……マンガ全部読んじゃった?」


もらったマンガは全部で5冊。

1日1冊と決めていてもすぐに読み終わってしまった。

「…はい。……面白かったから…」

「そっか…また持ってきたら読む?」

私は顔を上げた。

また持ってきてくれるの?


「…読みたい!」

思ったより大きな声が出て自分でもビックリした。

あいつも驚いている。

「……クスッ……そっか。わかったじゃぁ明日持ってくるよ。
ご飯ここに置いておくからね…」

『ガチャン』



また読めるんだ。


嬉しい。

私はぎゅっとリリちゃんを抱き締めた。

「…………ファッション雑誌でも見よう」


私は初めて雑誌を手に取った。


コンビニで見たことはあったけど、読んだことはない。


「………わぁっ」


開いてみると、綺麗な女の人がいっぱい乗っていた。

「すっすごい!可愛い~!」

キラキラしてる。


思わずため息が出る。

この人達は、服も可愛いけど、顔も可愛い。

「……いいなぁ」

私はあいつからもらった服を見る。




そして雑誌にまた視線を戻す。


「………私もこんなに可愛く着れるのかな………」


私は雑誌を片手にもらった服の方に歩いていく。


服はもらった日からたたんで床に置いてあったが、着たことはなかった。



「……大きい」


サイズが変。

大きすぎる。


服のタグのところを見ると『M』と書いてあった。


「……私は『150』のサイズでピッタリだったのに…」

ぶつぶつ文句を言った。

でも服は可愛いのでとりあえず着てみた。



「……………うそ…」


大きいと思っていた服がピッタリだった。


私はこの5年間。


ずっと寝ているだけで、身長も体重も測ったことはない。


「……こんなに大きくなってたんだ…」


私は洗面台の鏡を見る。

私の姿が映る。


髪も伸びて、背も高くなって…。


「……お母さんとどれくらいになったかな…」









『……………お母さん…』


『?どうしたの花菜?何かあった?』


『………………あのね…実は………マナちゃんがね…………』

『うん?』

『と、とっても可愛い服を買って貰ったんだって……………………だから…………あのね………服がね………』


『………花菜も可愛いお洋服ほしい?』

『…うん…………』


『……………わかった。今度買いにいこうか!』


『え!!いいの!?』

『うん!花菜もおおきくなったしね!好きなの買ってあげる!』


『ホントに!やったぁ!!』







「……おはよう」


「お早うございます…」

「…ここにマンガとご飯置いていくからね。」


「………はい。」


「……あれ?」

あいつは昨日私が着てみた服を見た。


「……着てみたの?どうだった?」

「あ………可愛かったです」

「そう…………良かった」



『ガチャン』



またお母さんの夢を見た。



あれは、私が服を欲しいって言って………可愛いワンピースを買ってもらったんだ。

気に入ってずっと着ていた。


でも…………………


私は目を閉じる。


私は知っている。


お母さんはその日から4日間、何も食べていなかった。


いつもお母さんは食べ終わったら食器を洗って置いておく。

学校から帰ってきた私がその食器を食器棚に片付ける。

それが毎日だった。


でも、その4日間は何もなかった。

なにも食べずに仕事に行っていた。


気づいたときは後悔した。


悲しくて申し訳なくて、でも謝るのはなんか違う気がして。

私はもう一度心の中でお母さんにお礼を言ったんだった。




「…あ!マンガ!」

私は飛び起きた。


「…………何から読もう…」
今回は10冊もあった。

私はまた迷った。

「………あれ?なにこれ」

私は1冊のマンガを手に取った。

マンガの表紙に、『タスケテ』と書いてあった。


「……………これにしよう」


私はページをめくった。



その話は奴隷にされた男の子の話。


毎日毎日蹴られて叩かれて掃除させられ、読んでいるときに私は涙か出そうになった。


疲れはててる主人公。夜になったら牢屋に入って朝を向かえる。

「……かわいそう……………」


捕まっている状況は私と一緒。


けれどやられてることは全然違う。


私はページをめくる。


ある日、男の子が起きると檻の前鍵が落ちていた。


それはこの牢屋の鍵。


男の子は意を決して牢屋から出て、外に向かった。

慎重に慎重出口に向かった。


「……頑張って…もう少し」


やっと出口が見えた。

男の子の顔は明るくなり、一気に駆け出す。

「やった!やっと出れる!これで…………え?…」


『ざぁんねぇんでっしたぁ~!』
ページいっぱいに男の顔が写っている。
男の子をずっと痛め付けていた男が男の子の手を掴んだ。

「……うそ………なんで…」

この男の子は慎重に行動して誰にも気付かれないようにしていたのに……


『もうちょっとだったのにね?残念!監視カメラがついていましたぁ!ぎゃはははっ!お前はずっと……』


「ひどいっ……」

私はたまらず涙を流した。

男の子も泣いている。


そこでマンガは終った。


「…この子はどうなるんだろう?」

私は続きのマンガがないか、探してみた。

けれどなかった。


「………………雑誌でも読もう…」


私は雑誌に手を伸ばした。


そして私の手が止まる。




…………………………監視カメラ?



あの男の子は監視カメラで見られていて、それで逃げられなかった。



もしかして、この部屋にも監視カメラが………………



私はぐるりと部屋を見渡す。


5年間、ここに住んできたけど全然気づかなかったけど


考えもしなかった。



『ここからでたい』


お母さん。


ごめんなさい。もう少しここから出るの、遅くなるかもしれない。