宮岸徹は板場で忙しい1日を過ごした。
 お客さまに出す料理を全て作り終え、後は片付けを行うだけだ。

 女子高生で板場見習いの鶴来理央は洗い場で作業を始め、板長の蓑田蓮二ともう1人の板前である冨樫努は自分の持ち場の掃除と片付けを始めていた。

 徹が冷蔵庫の中の食材の整理をしていた時だ。
 番頭の河合千尋がやって来て徹に声をかけて来た。

「徹くん。波の間のお客さまが会いたいとおっしゃって、君を呼んでいるよ」

「え? 俺をですか?」

 作業の手を止めて河合に振り向いた徹。

「奥寺マーリィさまと言う若い女性のお客さまで、君とは知り合いだって」

「おくでら…、まーりぃ…」