「あ、はい。遥先輩、ですよね?」
「へぇ、知ってるんだぁ、あたしのこと」
「知ってます…」
知ったのは今日の昼ですけど、なんてことは言えない。
とにかくこの空気感から逃れたい。
一刻も早く。
「芽依ちゃんって、湊と付き合ってるの?」
だけど、そんなあたしの思いなんて露も知らない先輩はあたしにそう問いかけた。
なんだかその言葉にどこか刺があるように感じるのは、あたしの気のせいだろうか。
「えっと、付き合ってます…」
身長差はほとんどない。
はずなのに、何故かものすごい威圧感を感じる。
「そっかぁ、応援してるね」
ニコッと可愛く笑った彼女は、ひらりと手を振ってあたしが来た道をもどっていく。
なんだったのか…
でも、さっき一瞬見た遥先輩はだいぶいつもと雰囲気が違っていた。
そこに守ってあげたくなるようなふわふわな彼女はいない。
彼女もまた、表向きの仮面があるのだろうか。
何にせよ、干渉はしない。
関わらない方がいいと、あたしの本能が言っている気がした。
